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 ファースト クラッシュ 著:山田詠美

 高見澤家の三姉妹の麗子、咲也、薫子のファーストクラッシュとなった初恋の相手を詩と共に紹介すると言う形でこの小説は進んで行く。まずは次女の咲也のファーストクラッシュである。

 高見澤家の父は神戸の女性にくびったけになり、その息子の力(りき)を引き取って来てしまった。女性は力の母親は死んでしまったのである。女性の園だった高見澤家に居候する事になった力をめぐって三姉妹だけではなくお手伝いのタカさんも母親もみんな力に釘付けになってしまった。

 次女の咲也は力が調子に乗らないようにとパトロールと称して付きまとって母と力のやり取りを盗み聞きする。母がサンルームと呼ぶ植物園の前の蛇口で毎週土曜日、力は自分の上履きを洗う。夏だろうが冬だろうがだ。そのサンルームで母は力の母と旦那との関係を根掘り葉掘り聞いて問い糺すのであった。咲夜はある夏の日、力が蛇口の水のホースを潰して水浴びしていた姿に目を奪われた。そして、力がアップルパイ用の紅玉と言う酸っぱい林檎を齧って渡して来た。そのシーンがありありと浮かぶ初恋と言う詩を学校で習う。島崎藤村の詩だった。その詩に心打たれて、涙が溢れるのを我慢できなかった。それが咲也のファーストクラッシュである。

 第二部では麗子の視点で語られる。麗子はお嬢様然として、周りに認められなければ我慢ならないのであった。力に自分の鞄を持たせて通学したり、バイオリンとピアノを習っている。ある日サンルームでお茶会が開かれるのを知った麗子は力に嫌がらせをしようとした。咲也の本棚から中原中也の本を借りて来て、自分のバイオリンの前にお客様に朗読してもらうのだ。その詩を聞いた力は涙を堪えてうつぶす事になった。食器などを取り揃える役だった力にバイオリンの音色での復讐を果たすも、麗子は自分のした事を反省する。やがて父も亡くなり、麗子は許嫁と結婚するが、ファーストキスの相手は力だったのだ。父がお土産で買って来たバービー人形を力は捨てないで持っていた。それを見せられて驚いた麗子。麗子にとってもファーストクラッシュは力なのである。

 そして第三部で薫子である。力を虐める事無く守ろうとずっと必死だった一番の末娘はなんと今も力に片想いしてると言う。そんな話を咲也とバーで話し合っていた。如何に私が力を守ったかと言う事と力と未だに連絡を取っているのは薫子だけだ。力をリッキと呼び薫子はカオと呼ばれた。じゃれつき合っていた昔のように犬の絆は一生物だと言って憚らない。とうとうそのファーストクラッシュは話の最後で身を結ぶのか。結婚しようと力に迫った薫子、そのバーに力が現れてエンディングだった。

 時系列や話しの動線がはっきりしてて、山田詠美さんの著作は読み易かった。三部構成、三人の姉妹の語りでひとつずつ詩を紹介して、三人のファーストクラッシュを書き分けている。浮気相手の子供がみなしごになって女の園だった高見澤家に居候と言う設定は力にとっては過酷な設定だったが少女が大人になるにつれ抱く感情を力を中心にして描いて行く。一読者として没入できる内容だった。

 解説の町田良平さんの文学と恋愛の蜜月についての洞察も素晴らしかった。

 以上

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