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美味しい感じ

1人の朝の空港はなんだか心細い。搭乗の1時間半前に着いて、チケットを発券して、うろうろして、空腹でもないのにサンドイッチとか食べて。これあれだ、喪服の代わりになるようなワンピースとか、靴とか、ストッキングを探して回るあの感じに似ている。欲しくもないのに、必要な手順を踏まないといけなくて、それができて一人前みたいな。カフェに座って、アイスコーヒーと温かいサンドイッチを食べながら、本を持ってくるのを忘れたことに気がつく。飛行機に乗るってのになんたる失態。ソファーのうしろにディスプ

    • 真っ赤なドナルド・トランプT

      祖父危篤につき、急遽福岡行きのチケットを取る。上司に打ち合わせ欠席の連絡と、土曜昼、初めて会う予定だった人に延期の連絡。夜、1年に一度だけ集まる高校の同級生との会に欠席の連絡。日曜の撮影、延期の連絡。数年会っていないじいさんの危機なのかなんなのかの知らせに、とりあえず予定をこじ開ける。想定より早かったので喪服は準備していたものの、靴がまだだった。急いで黒のパンプスを購入。あとはストッキング、と薬局に入店。葬式で履くストッキングの適切なデニール数をWebで調べて、20くらいがよ

      • 喉がひとりで歌ってる

        週末寝てばかりいたからか無事平熱に戻って、近所の料理屋にご飯を食べにでかけて帰ってきたら玄関のドアノブにずっしりとしたビニール袋がかかっていた。中には大きなスイカとプラムが入っている。都会を生きる者として一瞬うろたえるが、いやいやと部屋に戻って机の上に置きっぱなしにしていた携帯を開くと、休みの日はいつも踊っているというMりちゃんから「部屋番号これであってるよね?フルーツ置いておきます。お大事に!」というようなLINEがきていた。慌てて返信するも、すでにこの街を後にしたようでが

        • 半メロン

          久しぶりの発熱。気を落としそうになるのをグッとこらえ、昨日買っておいたメロンを半分平らげる。冷たくて甘い果汁がほてる体に染み渡り、体のつらさがひいていく。メロンってすごい。もう半分食べそうになるの慌てて止めて、ラップで巻いて野菜室へ。いっぺんにひと玉食べるだなんてそんな贅沢、なんだかバチが当たりそうで怖い。あれ?でも1杯500円のお酒はカパカパ頼むっていうのに、ひと玉550円の小さなメロンをけちるだなんて変な話だよね。もしかすると、お酒をやめてしまえばメロンをたくさん食べても

        美味しい感じ

          心優しいオタクが身を寄せ合う内向的な仲良しグループ

          昨晩帰宅してポストを見たらB6サイズの薄い茶封筒が入っていた。とうとう来たか!3ヶ月ぶりのLOOKノート。これは中高の友人4名と高校生の頃から断続的に続けている交換ノートで、卒業後も郵便で送り合い、メンバーの1人の留学中は中断され、その後復活し今に至る。小さいノートが埋まると新たなものに更新されて、古いノートは最後に受け取った人が保管しているので、今が何冊目なのかはもう知る由もない。 「LOOK」というのは私含め5人のグループ名で、発足はおそらく中3くらいの頃。中1のとき生ま

          心優しいオタクが身を寄せ合う内向的な仲良しグループ

          まつ毛の力も抜いてください

          夢で目が覚めて、水を飲みに起き上がったら朝焼けが見られた。なんだか懐かしい気がして窓を開ける。実家ではよくこうして朝を待っていた。高台の家で、周りに高い建物なんてなくて、明け方ベランダにいると、なにかの絵本みたいに朝が夜を塗りかえていくのが見られる。太陽がすこし顔を出しただけで、星たちはどこかに逃げていく。震える液体みたいな光が雲に触れて、木々に触れて、家家の壁に触れて、道路をひたす。そうやってみんなにゆっくり挨拶してまわりながら、やがて街を包み込む。 iPhoneを見ると

          まつ毛の力も抜いてください

          いなくなくならなくならないで

          朝家を出てポストを見たら本が届いていたので梱包を剥がしながら階段を降りた。しょっちゅう本を注文しているので、届く頃には何が来たのか分からない。今回はやけに重たい袋だなーと思ったら、河出書房の『文藝』2024年夏季号だった。「世界はマッチングで回っている」というタイトルの、現代における出会いのあり方についての特集に加えて、緊急企画として「ガザへの言葉」という特集も組まれていた。それらとは別の創作枠に、詩人の向坂くじらさんが初めて書いたという小説『いなくなくならなくならないで』が

          いなくなくならなくならないで