半メロン

久しぶりの発熱。気を落としそうになるのをグッとこらえ、昨日買っておいたメロンを半分平らげる。冷たくて甘い果汁がほてる体に染み渡り、体のつらさがひいていく。メロンってすごい。もう半分食べそうになるの慌てて止めて、ラップで巻いて野菜室へ。いっぺんにひと玉食べるだなんてそんな贅沢、なんだかバチが当たりそうで怖い。あれ?でも1杯500円のお酒はカパカパ頼むっていうのに、ひと玉550円の小さなメロンをけちるだなんて変な話だよね。もしかすると、お酒をやめてしまえばメロンをたくさん食べてもよいということになるのかもしれない。だいたい安居酒屋が面白かったのは高校生からハタチやそこらまでであって、今や翌日不調になるだけの代物である。近頃は誰と飲んでもみんなきちんとしていてつまらない。いやきちんとしていることは偉いし、25歳にもなってまわりがとんでもないやつばかりだと困るのかもしれないけど、前は誰かが泣き出したり暴れたり脱いだり殴ったり噛んだり歌ったり逃げ出したりキスしたり倒れたりもうしっちゃかめっちゃかでほんとうに面白かった。あれを見るためにお酒を飲んでいると言っても過言ではないけど、みんなは何が楽しくて夜な夜な安居酒屋に集って飲んでるんだろう。酔っ払うのが好きなだけとか言われるとアヘンでもやれと思うし、話がおもしろければお酒がなくても盛り上がるし、味が好きなら他に美味しい飲み物はいくらでもあるので安居酒屋で味を語ってないでよりよい味を探求すべきである。大人になって人に会うときにアルコール以外を注文しにくい風潮にはげんなりするし、そういう惰性で飲んでいる自分も確かにいる。しかしね、大して強くもないくせに私が安酒をあおるのは、翌日頭を抱えるような、それでいて何度も思い出してしまうようなことを自分ないし誰かがやらかす、そんな非日常の祭を期待しているからに他ならないことをここに書いておかねばならない。テントが張られ、めくるめくショーが展開され、翌朝綺麗さっぱりいなくなっている、そんなサーカスみたいな夜を知りたい。でも大人たちよ。携帯と財布とメガネと鍵はなくすなよ。それ以外はなにをしたっていい。一夜のアバンチュールに身を焦がしてもいい。昔の友人にノリで電話をかけたっていい。暴力はひかえめに。でも気のおけない者同士ならたまにはいいでしょう。話が盛り上がれば無謀な団体を発足してもいい。いつもは言い難い悪口を面と向かって言い合って喧嘩したっていい。とにかく遠慮しないこと。ぶちあたれ!砕け散れ、若者よ。今を楽しもう。朝がきて、ひとりきりの静かな帰り道に心底安らいでも、あの間違いだらけの狂乱の夜を忘れないでいたい。かくいう私も酒を飲んで暴れたことなど一度もなく、終電前にいち抜けドロンして帰宅しゆっくりお風呂に浸かって綺麗さっぱり眠るのが好きなたちです……。自分で買った、値引きシールの貼られた小玉メロンさえ満足に食べられない臆病者が、酔って間違いを起こすなんて到底できそうにないよ。こういうやつばかりになると、つまらないよなあ。まずはメロンから……と思うけど、やっぱり明日の朝の楽しみに取っておくことにします。トホホ

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