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大好きな先輩の机を抱えてあの子は逃げた(1990)

それはむかしむかしのおはなし。
まだわたしが中学生の時。

一個上にAちゃんと呼んでいた先輩がいた。女の子だ。

Aちゃんはわたしに、それはそれはいろんなことを教えてくれた。だいたい、ちょっと悪いこと。
ダイヤルQ2のツーショットダイヤルの一覧が書かれた紙、なんだかよくわからない細いスースーするタバコ、愛人が50人いるというそのリスト、「愛人」の一人が参加しているらしきローラーゲームというスポーツ、3年生の「ドカン」を履いているあの先輩の家の電気が消えてる時は女が来てる時だということ、その他諸々。

Q2のツーショットダイヤルに電話して、適当に池袋で待ち合わせをし、どんな奴が来るのかを遠巻きに見に行ったこともあった。
だいたいロクな奴は来なかった。

Aちゃんは愛人が50人いると言っていたけど、本命は学校の先輩だった。確かに顔の整った、少しやんちゃそうな、でも物静かなタイプの男の人だった。

その先輩の卒業式、Aちゃんは第二ボタンをもらいに行ったんだけど、ものすごい争奪戦だったようで、くっそー!とか言いながら、「第何」か分からないボタンを手に戻ってきた。

我々在校生は卒業式のあとかたづけをしたんだけど、終わった後、学校の前の寺で待ち合わせたAちゃんは、やけに大きな荷物を運んでくるのだった。

「持っている」というレベルではない。もう、「運搬」である。
Aちゃんは遠くから大きな声でこちらに向かって叫ぶ。

「ねー!みてー!先輩の机と椅子!ギッてきたから!」

居合わせた全員、呆気に取られた後大笑いした。

「逃げろ!見つかったら捕まるぞ!」
一人がそう言って、笑いながらAちゃんの家の方に向かって走り出した。

「ねえ、これどうすんの?」
わたしが聞くと彼女は答えた。
「当たり前じゃん、インテリアだよ!」

Aちゃん、あの机は今でも実家に置いてあるのだろうか。

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