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朝ごはん(2007)

その日、夜からあるイベントに参加していた。メーカーさんがきて機材デモをやったりしていたのだが、知り合いの会社のイベントということで、何人か紹介を受けていた。

私、だいぶ酔ってしまったんだろうな、あまり記憶がないまま、会場を出て、知り合いがDJをやるクラブイベントに顔を出していた。
なぜか、今日知り合いになった、そのメーカーさんの若い男の子を連れて。

移動の記憶が完全に欠如している。
知り合いが他に何人もいたから、みんなでハシゴしようぜ!というノリだったのだろう。(たぶん)

泥酔した私はいろんな人に抱きついたり手を握ったりしていた、らしい。
当時、仕事がだいぶ混み合っていて、ちょっと悪い酒の飲み方をしていたのは自覚していた。

明け方になってお開きになるのだが、「メーカーさんの若い子」は私と同じ電車に乗った。
彼は名前をNくんと言った。
家を聞いたらだいぶ遠い地名を告げた。

「眠くなっちゃったんですよねー」
「そかそか」
「無事に家に帰れる気がしないっす」
「おお、それはやばいな」
「家どこですか?」
「私?新宿からちょっと行ったところ」
「ちょっと仮眠とらせてもらっていいですかね?」

純粋な親切心から、特に何も考えずに私はNくんを家に連れてきてしまった。
ちょっと待ってて、と玄関で待たせ、干している下着をしまってから家にあげた。

ソファベッドをNくんに案内して、私は床で寝るからと告げたのが、7時くらいだっただろうか。

「なんか、寝れなくなっちゃって、ちょっと喋りません?」

初対面の人の家にいきなり来て、確かに寝れないかもしれないよな、とは思った。

「上、来ません?」
Nくんは私にいう。

「いやいやいやあ……」
私だって大人なのでさすがにその意味はわかる。

Nくんは8歳下と聞いていたので23歳だったろうか。
さすがに若いな、それはないな、と思っていたのだけど、腕を引かれて、断るための言葉がすぐに出てこなかった。


少し仮眠をとって、身支度をしてから、当時私が気に入っていた近所のカフェで朝ごはんを食べることにした。朝ごはんといってもだいぶ昼に近い時間だった。

トーストを食べながら、私たちはお互いの出身や、家族のこと、仕事のことなどを伝えあった。順番が逆だけど。

「また、連絡してね」
帰り際に電話番号とメールを交換して、店の前で別れた。


なんとなく、私からはNくんに連絡をしないほうがいいのではないかと思っていた。

彼はまだ若い。

彼から見たら「職場の先輩の知り合いと変な感じになってしまった」状態である。おそらく私の知人である「先輩」にはこの話をできないだろうし、1人でモヤモヤを抱えてしまうのかもしれない。

それに、23歳の男の子の選択肢は、もっとたくさんあっていい。


結局、それ以降Nくんに会うことはなかった。

余計な気を遣わずに、私が連絡していたら、もしかして別の人生があったのだろうか……?

彼はもう転職して、その会社にはいないようだったけど、願わくば、いま彼が幸せでいてくれると嬉しい。

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