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ご免侍 七章 鬼切り(二十一話/二十五話)

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あらすじ 
 ご免侍の一馬かずまは、琴音ことねを助ける。大烏おおがらす城に連れてゆく約束をした。祖父の藤原一龍斎ふじわらいちりゅうさいは、一馬を刀鍛治の鬼山貞一おにやまていいつに会わせる。貞一ていいつの娘が母親だった。そして母は殺されていた。鬼山貞一おにやまていいつから、母は生け贄にされたことを知る。生け贄の場所は大烏おおがらす城だった。


二十一

 鬼切おにぎりが、少しずつ振動をしなくなる。一馬は、疲れから自然と力を抜いたせいだ。

(余計に力を入れたから、鬼啼おになきしたのか)

 今は静かになった刀は自在に扱える。正眼の構えをすると金鬼こがねおにに刃先を向けた。

「おぬしは、ここで倒す」
「……水野琴音みずのことねが、いまごろさらわれているかも」
「また助けるだけだ」

 金鬼こがねおにの十名の敵が一斉に牙をむく、一馬は何も恐れず、ただただ敵の動きを見極める。

 鬼切おにぎりの刀速が見えない、かすむようにきらめくと若い敵が声も出さずに倒れていく。

「これは、私でも見極めが難しいですな」

 ゆらりと金鬼こがねおにが飛び込んできた。剣の間合いに入ると一馬は半歩だけ体を後ろにずらし、鬼切おにぎりの刃先を少しだけ動かした。

 ぼたぼたと血が流れる。金鬼こがねおにの右手首から先がない。手首は地面に大きな鉄貫てっかんを握りしめたまま落ちている。

「はははっ、さすがですな、藤原左衛門ふじわらさえもん様のご子息なだけはある」
「父を見知っているのか」

 半眼の一馬は、すでに無我の境地なのか何にも動じない。父の名を聞いた事で違和感があるが、それも無に飲み込まれる。

 金鬼こがねおにが、手首のない右腕を一馬めがけて打ち込む。異様な攻撃だが、腕を盾にした決死の攻撃だ。

 その瞬間にくるりと足を高く上げて一馬の腕を狙う。高い蹴りは刀では受けられない。重さが違う、腕はへし折られる。

「むん」

 鬼切おにぎりが、また振動すると一馬の体全体が震える。金鬼こがねおにの右足膝から下に刃を入れると、すべるように足が落ちた。まるで豆腐でも切るような感覚だ。金鬼こがねおにの体がぐらりとゆれると、地面に叩きつけられながら転がる。

「何か言い残す事はないか……」
「何もないですよ」

 倒れた金鬼こがねおにの体に鬼切おにぎりを深く差し込む、彼は少しだけ痙攣けいれんをすると、意識が遠のくようにゆっくりと眼を閉じた。

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