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SS 猫のお茶屋 創作民話

「お静 お客さんだよ」私はお茶屋で働いている。広い池の端で数人くらいの茶屋娘が居るだけの店だ。池には蓮の花が咲き、鯉が泳いでいる。私も他の娘たちと一緒に、池の側に座って客を待っている。普通のお茶屋だと若い娘が、お客さんにお茶を出すだけだが、この店は趣向がある。妖怪に化けるのだ。私は偽物の耳と尻尾をつける。その姿でお店に出ると人は集まった。

「はい お饅頭と麦茶です」大きなお店の息子だろう、肌がなまっしろい彼は、にやけながら私を見る。金払いは良いので誰も邪険にしない。暇で仕方ないのでこうやって時間を潰す。「お静さんは許嫁とか居るのかい?」そうやって茶化して遊ぶ。「いいえ居ませんよ」私もそろそろ年頃なので、誰かに紹介されるのかもしれない。

家に帰ると父親が飲んだくれていた。働かない。私の稼ぎでなんとかしている。「お静 速く飯くれよ」私は朝に炊いたご飯を取り出すと、漬物と一緒に出した。父親は黙って食べる。こんな事すらできない父親だ。私は長くため息が出る。

その日も仕事が終わると長屋に戻る。父親が死んでいた。血を吐いていた。どうやら胃が悪かったらしい。酒の飲み過ぎだろう。葬式が終わるまでは呆然としていたが、長屋の人達と大家が墓を作るまで面倒を見てくれた。

一人で長屋に居るのはさみしい、戸が叩かれた。「お静さんいるかい?」あの茶屋に居た息子だ。「福太郎と言うんだ」彼は私の借金を棒引きに出来ると言う。私はそんな証文がある事すら知らなかった。「その代わりだけどね」彼の女中になれと言う。それはそのままの意味では無い事は私にも判る。「茶屋で返事を聞かせてくれ」

朝になると茶屋へ向かう。身寄りも無い私には仲人も話を持って来ないだろう。「どうしたんだい お静」先輩のお墨さんが私の背中をさする。私の話を聞くと「証文も見せないで一方的だね」と怒ってくれた。福太郎が来るとお墨さんが問いただす。彼は慌てて逃げ出した。

仕事が終わり、家に戻ると数人の荒くれ者と福太郎が居た。「お前が悪いんだよ」福太郎は薄ら笑いをしている。私は長屋から逃げると、男達はゆっくりと追いかけてきた。小娘の足で逃げられるわけがない、私は泣きながら茶屋に戻る。

お墨さんがまだ居た「助けてください」私の話を聞くと茶屋の娘達が集まる。福太郎が駆け込むと「証文はあるんだ」紙を見せながら私に手を伸ばす。シャッっと奇妙な声がすると福太郎の手から鮮血があふれる。「なにするんだい」福太郎が叫ぶ。手を押さえながら座り込む。

荒くれ者は乱暴に茶屋娘を排除しようとした。まるで曲芸のようにお墨さんが空中で一回転をすると男の喉仏を食い破る。逃げようとした他の男達も茶屋娘に食われる。耳が……そうだ彼女達の耳は本物だ。福太郎をみなでかつぐと池に顔をつけて水死させた。

もう夜だ、お墨さんが私に近づく。「どうする?私たちの仲間になるかい?」私はうなずいた。猫娘の利点はわざわざ偽物の耳と尻尾をつける必要もない。出したり引っ込めたり自由だ。「いらっしゃいませ」お客さんにお茶を出す。私はふと考える。猫になった私に旦那様が現れるのかな?と最近はそれだけが心配だ。

終わり


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