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ご免侍 六章 馬に蹴られて(三話/二十五話)

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あらすじ 
 ご免侍の一馬かずまは、琴音ことねを助ける。大烏おおがらす城に連れてゆく約束をした。一馬は、琴音ことね月華げっかの事が気になる。


 神田川の土手は、川風が強いのかかなり寒い。隠密頭おんみつがしら天狼てんろうは、まったくそんな事も感じないのか微動だにしない。

「山の湯に行くそうだな」
「伊豆の山奥にあると聞いてます」

 一馬の祖父の藤原一龍斎ふじわらいちりゅうさいは、ふみ天狼てんろうに旅の願いをしていた。

「これをもっていけ」

 ふところから出しのは、木の札だ。六角形のそれは一馬が普段から見慣みなれている連絡用の札と同じだ。

「手形ですか」

 二枚の札には、名前が書かれている。

 御用 ご免侍
 藤原一馬ふじわらかずま
 藤原一龍斎ふじわらいちりゅうさい

 祖父と自分の関所手形、いや違う、特別な通行証だ。黒く焼き印が入ったあおいのご紋は、有無をいわせず通る事ができる印だ。

「どれくらいで戻る」
「来年の春には戻りたく存じます」
「判った……それと」
「はい」
水野琴音みずのことねという名前は知らぬか」

 じわりと脂汗あぶらあせがでる、嘘を言えばどんな罰がまっているかわからない。

「聞いた事があるかもしれません」
「どこで聞いた」
「投げ込み寺の和尚から、死んだ老人を供養しましたが」
「それで」
「その老人が娘を連れていたと……」
「住職はどこにおる」
「死にました」
「なぜだ」
「夜盗と関係していたので私が斬りました」
「手がかりがまた消えたか……」
「わ……私は祖父の元に戻ります」
「まて」

 嘘をつき通せる自信がないが、だからと言って琴音ことねをかくまっている事を話すわけにもいかない。何事も言うべき時と場所がある、それを外してしまうとむずかしい。

「……なんでしょうか」
「娘は大事な人質だ、もし見つけたら知らせろ」
「はい……」

 隠密頭おんみつがしら天狼てんろうから発せられた、人質の言葉に違和感を感じると疑惑に変わった。

(もし天狼が、散華衆さんげしゅうならば)

 あり得ない話ではない。わざわざ一馬に手形を届けるためだけに、自分から神田川の土手までくるだろうか。

散華衆さんげしゅうは、横のつながりが薄い、もしつながりが強ければ屋敷を大人数で強襲すれば終わる)

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