ご免侍　九章　届かぬ想い（五話／二十五話）

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あらすじ　
　ご免侍の一馬かずまの父が、散華衆さんげしゅうの隠形鬼おんぎょうきだと暴露された。一馬かずまは、連れ去れた琴音ことねを助けられるのか。

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五

「それで幕府のあんた達は何するんだい」

　海賊の長の村上主水むらかみもんどと一緒に座っている娘の村上栄むらかみさかえは、隠密頭おんみつがしらの天狼てんろうをにらみ返す。

「江戸幕府は表だって動けない、当たり前じゃ。死者が蘇るからといって軍勢を出せるわけがない。幕府の威信にかかわる」
「それではどうすれば」
「だからご免侍の出番だ」

　天狼てんろうは、ひそかに手勢を集めて街道を封鎖する準備をしている。名目は、山賊退治としてけしからぬ奴らを見張るためだ。

「幸いだったのが、一馬が一人で散華衆さんげしゅうを倒してくれた事だ」
「天狼てんろう様、父が……」
「それも承知している」
「……」

　一馬が驚いたような顔をして老いた頭巾の侍を見た。

「雄呂血丸おろちまるから、内々に状況を知らせてくれたからな」
「雄呂血丸おろちまる殿は、天狼てんろう様の配下なのですか」
「ああ、お仙も我が手のものだ」

　天狼てんろうは、用意周到に藤原ふじわら家を監視していた。

「一馬、お前も調べていた。いつか裏切る、父と同じ道を歩むと心配していた」
「あああ……」

　板床に両手をつく、お仙が父と自分に近づいたのは、そのためだ。

「そしてもう一つの心配は、そこの女忍者だ」

　散華衆さんげしゅうから逃げ出した露命月華ろめいげっかをじろりと見ると、天狼てんろうはふっと笑う。

「一馬をたぶらかして、藤原左衛門ふじわらさえもんの言いなりに、させるかと思ったが逆じゃったな」
「私はそんな事はしない……」

　天狼てんろうが、また一馬に向き直る。

「わしの力で岡山城はおさえる、だが天照僧正あまてらすそうじょうは、お前が倒せ」

　一馬は、ずっしりと重荷が背負わされた気分だった。ご免侍としての仕事が始まる。

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