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ご免侍 八章 海賊の娘(十八話/二十五話)

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あらすじ 
 ご免侍の一馬かずまは、琴音ことねを助ける。大烏おおがらす城に連れてゆく約束をした。母方の祖父の鬼山貞一おにやまていいつと城を目指す船旅にでる。一馬かずまが立ち寄った島は、水軍が管理していた。海賊の娘、村上栄むらかみさかえは協力する代わりに一馬との婚姻を望んだ。海賊の港に鉄甲船てっこうせんが突入する。散華衆さんげしゅう四鬼しき大瀑水竜おおばくすいりゅうは一馬に倒される。


十八

 一馬は不思議と疲れを感じない。鬼切おにぎりの使い方も判ってきた。鬼啼おになきの時の力のいれ具合が調整できる。

(これなら勝てる)

 海賊の館に戻ると、浜から避難してきた村人でごった返しの状態だ。なんとか部屋に入ると、水野琴音みずのことねがうつむいている。

「戻った、大丈夫だったか」
「一馬」

 琴音ことねは、はっと顔をあげると飛びつくように一馬の体を抱きしめる。一馬は、あたたかさで頭が一杯になる。

(良かった……本当に良かった)

 琴音ことねが、自分の身を心配してくれるだけで幸せだった。それ以外の事は考えられない。

「馬鹿一馬」

 冷たい声で、体が凍りつく。月華げっかが後ろで黙ってみていた。

「話がある浜まで来い」

 それだけ言うと部屋から消えた。

「どうしました一馬」
「いやなんでもない、ちょっと行ってくる」
「わかりました、お気をつけて」
「そういえば一人なのか」

 雄呂血丸おろちまるや、祖父の鬼山貞一おにやまていいつも居ない、そしてお仙も姿が見えない。

「みながいそがしげに働いていて、私は何もできなくて……」
「そんな事はないだろう」

 今も若侍の格好している琴音ことねは、さみしげに笑う。

「そろそろお別れですね」
「……え」
「船に乗って大烏おおからす城にいけば……」
「まてまて、俺は琴音ことねと別れる気はない」
「お役目があります」
「それは判っているが……神に身を捧げる理由がよくわからない」
「それはそうですが、国をまもるために……」
「それがわからぬのだ、もし本当にささげないと国が滅ぶというならば」

 一馬は息を大きく吸い込んだ。

「その神は、正しい神なのか」
「それは……」
「昔は川の氾濫はんらんのために身をささげた話もあるが、最近ではそれもない」
「……」
「それに神がいるというならば、一人の娘で満足する理由もわからない」
「一馬は嫌なのですね」

 一馬を見る琴音ことねの眼はうるんでいるように濡れていた。

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