マガジンのカバー画像

創作民話 関係

112
創作民話をまとめています
運営しているクリエイター

2022年8月の記事一覧

SS 燃える雨雲 #爪毛の挑戦状

※残虐な描写があります、注意してください。 子供がふらふらと歩く。二階にある部屋の中を食べ物を探すかのように歩き回る。私がここに来たのは昨日だ。親から売られると ここに閉じ込められた。 飢饉が来ると子供は売られた。「頑張るんだよ」十四歳になった私は貧農の子供だ。皆が食べる事を優先にする。子供を売る事で食糧確保するのは手っ取り早い。 母親は手をふって私を見送った。奉公に出されると言うが実際は人売りに渡された。私は恨むつもりもない。女の子は高く売れる。私は他の兄弟達の役に立

SS 猫が見ている

白い毛並みの私はペロペロと体をなめる。「またどら息子が吉原通いよ」女中がぶつぶつと独り言。大店の息子は無駄金を使って勘当寸前だ。私は横目で見ながら前足で顔を洗う。どうせ人なんて五十年も生きてないのだから好きにさせればいいのにと思う。 「しろや」猫なで声で私をなでる息子。まぁ触らせてあげてもいいわよ。こいつは無能と言うけど私は見ている。仕事熱心だ。店の帳簿もよく調べてるし店の品も丁寧に扱う。ただその努力は誰にも見せてない。吉原通いも、取引先相手の素性を調べる目的だ。酒を飲ませ

SS 夢は夜ひらく 創作民話

夜に目覚めると私は街へ向かう。私のような素性の判らない女はまともな場所では働けない。薄汚れた街角で立つと客が来る。お互いが納得できる値段で私は安宿に客を連れて行く。粗末なベッドしかない部屋で客は我慢できずに私に抱きつく。 少しばかりの金を貰うと朝日が昇る頃にくたびれた酒場に行く。私はその金で食事をして街の外へ歩いて帰る。 「どう?いい客は居るかい?」 顔見知りの太った女が声をかける。年老いているので客は寄りつかない。羨ましそうに私の顔を見る。私はこの界隈ではかなり美しい方

SS 初めての鬼 #毎週ショートショートnoteの応募用

「お前が見習いの鬼か!」 鬼の様な上司が初めての鬼の俺を怒鳴る。俺は持ち場に案内された。罪人を責め立てる方法は無限にある。焼く、引き裂く、沈める、煮る。仕事は山のようだ。ただ長くやるとなんでもそうだが飽きる。ルーチンワークだ。罪人の方だって痛みがあるが同じ事に繰り返しでどう痛むのか判る。痛みなんてのは突然くるから怖いのであって、常に同じ事を繰り返されたら、それが日常になる。 「旦那 今日は煮ますか?焼きますか?」 いつもの親父が軽口を叩く。 「うーん 煮るかな?」 煮るだけ

SS 猫提灯【創作民話】

「よく見えない……灯りが欲しい」 歳で猫の目がよく見えない。猫はロウソクを買いに外にでる。外はまっくらだ、これなら提灯でも持ってくれば良かったと後悔をする。猫なのに夜に弱いのは本当に困る。ネズミも捕まえられない。 「ちゅーちゅー 旦那さん ロウソクありますよ」 ネズミの行商人だ。ネズミから買うのは忌々しいが我慢する。 「いくらだい」 「ヒゲでいいですよ」 ヒゲなんて何に使うか知らないが引っこ抜くと一本だけ手渡す。 「毎度」 猫はロウソクを買うと家に戻って火をつけようとする

SS たぬき好き 【創作民話】

昔々たぬきが好きな少女が居ました。もちろん動物は大体好きなのですがたぬきの愛嬌のある顔が好きなのです。もちろんそんな少女が好きな動物も居ます。きつねです。年老いた狐は少女がかわいくて仕方がありません。 「きつねさん こんにちは」 少女が狐を見つけると挨拶をします。狐は恥ずかしそうに少女を見るばかりで近寄れません。自分はもう歳を取り過ぎました。 「たしか少女は たぬきが好きと聞いたな」 狐はたぬきに化けますが、どうも尻尾が難しい。隠せないのです。仕方がありません。狐は邪魔な

SS 青い鳥【創作民話】

少女は怖い絵本を見る。怖いのが好きなのは怖い体験をした事が無いから。本当の恐怖を知ったらきっと怖い話を読めない。だから私は幸せ。ひとりぼっちでいつも私の回りに人は居ない。怖い話だけが私を癒やしくれる。本当の恐怖を知るまで私は怖い本を読む。 「この本も怖そうね」 表紙に笑う少年の絵が描かれている。彼はボサボサの頭で一人で笑っている。その世界に不幸せな事が存在はしない。笑う事で世界を生きていける。 「私も笑えばもっと幸せになるのかな …… 」 家族も仕事で家に居ない。学校は一