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ノーン | ミニマリストライター
2020年9月18日 10:24
昭和五十七年十二月昼に地元・沖洲を出たフェリーは、浜松沖をゆっくりと走っている。ここで飛び込めば、遺骸も何も上がるまい。暗くなりかけた水面を見ているうち、分厚い眼鏡をかけた顔が脳裏に浮かんだ。先月訪れた、職業安定所の職員の顔であった。「やめときない」家を継いだ三男の嫁とは折り合いが悪く、自分が建てたはずの屋敷には居場所がなかった。家政婦でもして外に出ようかと相談に訪れたが、齢七