私が足元にも及ばなかった、「まばたきしかできない男の子」の話


今回のお話はとてもデリケートだ。

本来なら私のようなアカウントで書くべきテーマではないのかもしれない。でも、この「つかふる姐さんをつくった人たちの話」シリーズでは、アカウントがどうのイメージがどうの関係なく、自分が今いちばん書きたい人のことを書くと決めている。

だから書こうと思う。私が20代の時に出会った、15歳の男の子の話だ。

正確には、彼と、彼に負けないくらい強く優しい、彼のお母さんの話だ。


その子とは、とある施設で出会った。“出会った”と言えるのかどうかすら疑わしい。私がその子とともに過ごした時間は4時間程度だからだ。たった4時間。でも彼と彼のお母さんは、私のある種の価値観をすっかり塗り替えてしまった。

その子のプライバシーを守る意味でも詳細は省かせていただきたいのだが、当時私はその大規模な施設で、ある“検査”のようなことを担当していた。白衣を着ている公的な研究員みたいなものを想像してほしいのだけれど、とにかくある年齢のある特徴をもった児童を対象に、一定の手順で検査のようなものを行うのが私の仕事だった。保護者へのインタビューもだ。もちろん彼らには結果的に手厚いメリットが用意される。

おそらく5月だったと思う。大型のバンが敷地内の駐車場に到着し、彼がストレッチャーのようなもので母親に押されてやってきたとき、私は一瞬言葉を失った。

彼の資料はもちろん読んでいた。前任者からのコメントもあった。知識もあった。でも“それ”がどういうことなのか、紙ぺらで読むのと、目の当たりにするのでは、まったく違う。


彼は「脊椎損傷による全身不随」を負った少年だった。

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