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greenのデニム

代官山と恵比寿から歩いたところにあったgreen。

雑誌でもたくさん取り上げられていて憧れのショップだった。

デニムはそれまでも履いていたけれど、どちらかというと苦手だった。デニムを好きになったのは、greenのデニムと出会ったからだと思う。

こんな高価なものを買うことなんてないと思っていた。デニム一本にこんなに払えないと。

見ているだけでも緊張してしまう、ブラックとホワイトで彩られた重厚感のある店内。壁にもオブジェが並んでこっちを見張られているような気にすらなった。

何度か足を運んだけれど、勇気が出なくて何もできずに帰ったこともあった。今日こそはと乗り込んで、あらかじめ目星をつけていたデニムを試着した。

ファスナーではなくボタンになっていた。当時は、デニム選びは、少しきつめで履きならしていくのがいいという流れが雑誌などでも取り上げられていた

履いてみると、これはありなのかと正直思ってしまうほどだった。試着室からそんな姿ででることが恥ずかしくて、少しゆとりのあるサイズで外にでた。

「もうワンサイズ小さくてもいいかもしれませんよ」と言われた気がする。

けれど、気持ちとともに体重もよく上下していて、太ったときのことを恐れて、ゆとりのあるサイズのものを購入した。

それからオフの日は、毎日のようにこのデニムと一緒に過ごした。愛着がわく服って、こんなにも気持ちを満たしてくれるのかと。

ネイビーの色落ち感、履いているとそこまで気づかなかったけれど、友人に「このデニムいいね」と言われたり、写真で見ると今まででは感じられない雰囲気をまとっていた。

今のようにスマホではなかったから、社員旅行の時の写真をプリントしてみた時にびっくりしたのを覚えている。

同期の4人で宿に着いたところで撮った写真。私を含めて3人がデニムを履いていた。比べてしまうのがおかしいけれど、悪くないと思った。このデニムってすごいと。

あの日、あの人がこなかったのは、私のせいだった。

「どう、そっちは?」と聞くので、同じ時に携帯で撮ってもらった画素数の低い写真と短いメッセージを送った気がする。

申し訳ない気もした。いや、そんな気がしたのだろうか。でも、私にはどうにもできなったし、あの人はかえって届かないその距離を歯がゆく、じれったく感じていたような気がする。

あの人がきても何も起こらなかったとしたなら、そのほうがよかった気がする。なにか起こるには、私の中ではまだ何かが足りなかったし、違うものを探していた。

デニムはサイズが合わなくなって処分してしまったけれど、代わりにお気に入りのデニムたちと出会えた。私の心を元気にしてくれるものを見つけた。

greenと刻印されたちいさなチャームが、役割もないのに静かに裁縫箱で眠っている。

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