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陽の射さない部屋から

 冬は怖い。冬が嫌いというわけではなくて。目が覚めると日が傾いていて、外の景色は暖かなオレンジ色に染まっている。意識がはっきりとする頃には外は薄暗くなっている。


 江國香織の小説にこの青い空の色の名前が書いてあったことを覚えていて、けれどその名前が何だったかは忘れてしまった。バイトがない日はご飯を買わないといけないから、近所の弁当屋まで歩く。

 22時までの営業時間に間に合うように21時40分までに家を出る。それだけ。それだけの生活。少しでも明るくなったら眠ろうと思って、けれどなかなか明るくならずに、早く眠らなくてはという焦燥感だけが残る。冬は怖い。本当に。


 大学の授業にしばらく出られなくなって、部屋に閉じこもってTwitterをみたり、Twitterをしたり、youtubeで2chのニートのまとめスレとか風呂に入らないやつのVlogとかみて安心して、Twitterをしたりしていた。部屋がどんどん荒れていく。外に出ようとしても靴下を洗濯していなくて、サンダルで行ける場所以外には外出できなくなる。

 ペットボトルは燃やせるとして、空き缶はどうすればいいのだろう。わからないから電子レンジの上に積む。ちょっとした壁ができて、何かのタイミングで崩れる。生活みたいだなと思う。

 

 音楽や言葉が生きるための原動力だったから、そのために生きるために必要なバイト代をすべて使って夜行バスでライブを見に行く。最近はカプセルホテルをとるという発想もなくなって、知り合いにご飯をおごってもらってネカフェで泥のように眠ることを繰り返す。
 
 ネカフェが空いていなかったら野宿をするしかないなとゆうちょ銀行のアプリを開きながらぼんやりと思う。これから冬になるけれど、私はなんだか、それでも道で寝ても死なない自信がある。
 それはきっと生きることに希望がなくて、自分の身体にも執着がないからで、それが幸せなのか不幸なのかは分からないけれど、いつどこで死んでも、まあ元から希死念慮はあったしなと思うことができる。


 私の安全を心配する人もいない。存在が耐えられないほど軽くて、だから私はひとりでどこにでも行けるし、どこまでも行けるのだと思う。ぼろぼろになりながらでも脚がちゃんとある。天使になれなかったなぁなんて思う。永遠17歳の女の子にもなれなかったし。

 夜行バスから降りて、久々に朝日を浴びる。眩しくて、ここに自分がいるべきではないと反射的に目を背けたくなる。けれどそらす場所がなくてまた前を向く、そこで初めて、朝日や、世界が美しいと思った。わけもないのに寂しくて、でも嬉しくてなんだか泣きそうになってしまう。
 
自分で自分の感情を手に負えなくて、立ち尽くすべきなのかも走り出すべきなのかも分からなくて、だから地に足が着くようちゃんと歩いた。


(それでも、 次の日からはまた、薄暗くなってから目を覚ます日々に戻ってしまった。)

電気代が怖くて、冷え込む夜でも暖房を20度以上にすることができない。
常に肌寒くて、陽の射さないこの部屋から送る、生活のレポートがこれだ。


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