あなたたちにはわからない

乱文恨み節につき、ご注意ください。


日本を出て3年過ぎた。海外生活はどちらかといえば、しんどいことの方が多かったし、現在進行形で乗り越えなきゃいけない課題も山ほどある。

それでも、日本にはまだ戻る気になれない。

移住してきたばかりの頃、海外生活30年以上の日本人女性にディナーへ招待されたことがあった。

あの夜のことは、忘れられない。

子供を連れて移住してきた若い日本人夫婦の私たちに、彼女がくれたのは「子連れで移住なんてしてきて、将来どうするつもり?」から始まる長いお説教だった。

後先考えずに移住してきちゃった若夫婦。彼女の目に私たちはそう映ったのだろう。

老後の親の面倒、子供たちの言語、現地での仕事のこと…お説教は、ありとあらゆるトピックに及んだ。

海外生活の長い彼女の言い分はよくわかる。異国の地で生きるってのは、そりゃ大変なことだ。

言葉の壁、人種差別、子供のアイデンティティ、移民問題その他色々、海外生活におけるあらゆる障壁は、日本での暮らしからは想像もつかないほどハードだ。

海外に行けばなんとかなる、なんて甘い考えが許せないのも当然だろう。

でも、ちょっと待ってよ。

なんであなたは、私たちが”夢のような海外生活を求めて移住してきた脳内お花畑な若者”だと言い切れるの?

あなたは、私たちの一体何を知ってるの?


私たちは、景気の良かった時代を知らない。

子供時代からずっと、閉塞感に包まれてきた。

(思えばあの頃から少子化問題や年金の行く末も案じられていたけど、あれから20年以上経った今もその問題って全然解決してないよね。)

おまけに私たちはちょうど就活とリーマンショックが重なって、仕事を見つけるのもかなり苦労した。

相当頑張ってやっと内定をもらえた会社は、労基法ガン無視の残業地獄だった。

パワハラセクハラも監視の目が厳しくなったとはいえ依然として存在していたし、既婚子持ち女性社員への風当たりもキツかった。

結婚出産して復帰したくても、保活に敗れれば退職せざるを得ない。

そんな状況で、子供一人育て上げるのに2000万必要で、さらに老後のためにもう2000万追加って。

たっかい年金を少ない給与から天引きされて、それなのに未来の保障はない。

街へ出れば子連れ様とか叩かれて、気持ち悪い変態どもから我が子を守らなきゃいけなくて。

どれだけの絶望感を抱えながら生きてるか、少しは想像できませんか?


海外生活の長い先輩方は、「海外で生きていくのは大変。甘く見るんじゃない」ってお説教くださいますけど、我々世代からしたらこれからの日本で生きていくのもだいぶ修羅の道なんですが。

あのね、そりゃ未来に希望が持てたら、わざわざ好き好んで母国出ないよ。

言葉も通じる、ビザもいらない、実家もある、そんな環境を捨ててまで日本を出るのは、私たちがそれくらい追い詰められてるから。

たとえ大変でも、想像を絶する苦労があっても、「日本よりマシ」って思うから出るんだよ。

葛藤がないわけないだろ。

むしろ葛藤だらけだよ。

どうしたら自分や、家族を守れるのか。

どうしたら明るい未来を手に入れられるのか。

どの道が私たちにとってベストなのか。

ずっとずっとずっと、そんなことばかり考えてるよ。


私たち夫婦は運よくこっちで仕事見つけて、共働きで何とかやってるけど、不安だよ。

子供たちが巣立つまで、健康体で働けるかなとか。

日本にいる親が倒れたらどうしようとか。

仕事を解雇されて、この国にいられなくなったらどうしようとか。

子供たちが学校で差別を受けたらどうしようとか。

今、夫婦どちらかが死んだらどうしようとか。遺体輸送費いくらかかんのかなとか。

いつも不安でいっぱいいっぱいだよ。

でも、前を向いて生きるしかないから、不安を1つずつ潰していくために、働きながら地道に勉強して、収入源を複数作る努力をして何とかやってるよ。


あのさ、上の世代の先輩方。安全なところから若者に石を投げる先輩方はさ、下の世代が苦しんでいることについてはどうお考えですか?

あなたたちが日本を出た数十年前とは、多分もう何もかも違う。

あなたたちが考える以上に、下の世代はしんどい思いをしてるし、未来に希望持てずにいるよ。

それでも、何とか頑張って生きようと、もがいてるんだよ。

そんな苦労も知らずに「海外生活は大変なのよ」なんてわかりきった話を長々としてきてさ、申し訳ないけどせっかくご馳走になったディナーも全然味しなかったわ。


私たちは、お花畑なんかじゃない。

真剣に真剣に考え抜いた結果、今ここにいるんだよ。

現地人と結婚して、何十年も異国で暮らしてきたあなたもさぞ苦労したんでしょう。だからこそ、忠告のつもりのお説教だったのかもしれませんね。

でも、すみませんそれ響きません。

むしろ、もう二度と会いたくない人リストに入れさせていただきました。


お願いだからさ、頑張って生きてる若者の芽を、思い込みで摘み取らないで。

本当に私たちのためを思うなら、ただ黙って見守ってて。それかせめて下の世代が少しでも希望を持って生きられるように、何らかのアクション起こしてくれたら嬉しいんだけど、あなたそれはしないよね。わかってる。

要するに、ただ値打ちこきたいだけなんでしょ。

まぁ、お互いのためにもう関わり合いになるのはやめときゃいい話なんだけどさ。


私たちより下の世代は、人生について相当本気で考えてると思うけどな。

その結果、絶望してる人もめちゃくちゃ多いんだよな。


ほんと、これからどうしようね。

どうやったら、幸せに生きられるんだろうね。

私たちにできることって、何だろうね。






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