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枯れ葉


泣いた。

年の瀬にふさわしく「人生はたいへんだしうまくいかないし、世の中は戦争とかひどいことだらけだけど、生きてれば良いこともあるよ…」と夢を見せてくれる作品だった。

本作 アキ・カウリスマキ監督のインタビューによれば、ウクライナ戦争をきっかけに引退宣言をひるがえして5年ぶりにメガホンをとったという。じっさい作中には何度も何度もウクライナの戦況を伝えるラジオニュースが流れ、登場人物は常にそれを意識している様子が描かれる。

また、突然クビを言い渡されても何も言えない低学歴労働者の主人公2人が、それぞれどんな目に合うかを描いていくこの作品には、イギリスのケン・ローチ監督が最下層の労働者や弱者を描き続けているのにも似た、社会への静かな怒りが感じられる。

とはいえ、戦争という悲劇や、社会の矛盾や不平等の中でも、人間ひとりひとりの人生には愛情や友情、いろんなドラマが生まれ続ける、そんな「希望」を本作は描き出している。

ビジュアルに関して言えば、部屋でも職場でも通勤電車でも酒場でも ── 画面のどこかに、ほぼ必ず赤色が使われているのが目についた。

ドレスもソファも赤
ジャンパーも酒場の壁も赤
映画館の椅子も赤
靴下も赤

明らかに、本作のアキ・カウリスマキ監督が敬愛する小津安二郎監督へのオマージュであろう。おかげで作品全体に、どこかポップでキュートな「色のリズム」が生まれている。

「彼岸花」 (1958, 小津安二郎 監督)
秋日和 (1960, 小津安二郎 監督)
秋刀魚の味(1962)

本作は、人生の盛りを過ぎたなんとも冴えない2人が出会う物語なのだが、最後に流れるシャンソン『枯れ葉』「光り輝いてたあの頃…今はもう枯れ葉…散るだけ…」という歌詞が、「……とはいえ枯れ葉になってからも人生は悪くない。生きるに値する」というポジティブなメッセージに反転して聞こえる、美しいラストシーンだった。


(2023.12.27)
http://www.wonosatoru.com


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