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小説『ワンダリングノート・ファンタジー』(25)操られて
Chapter25
「ち⋯⋯調子はどうだい? レナ⋯⋯?」
トムの顔は引きつり、声もしわがれていた。その様子にレナは仰天し、彼女自身も絵本に襲われ取り込まれた時の光景がフラッシュバックし、体が硬直した。
「ト⋯⋯トム!? 変な冗談はやめて?」
「レナ⋯⋯君は、とても綺麗な髪をしているんだね⋯⋯」
操られていることを自覚しながらトムは揺れ動くブランコから降りようとしたが、左手はしっかりと吊り具を握ったまま離れなかった。彼の右手は、自分の意志に反してレナの髪に伸び、愛おしそうに撫でた。
「えっ!? トム!?」
「とても素敵なブロンドヘア⋯⋯魅力的な質感と輝きだ」
制御の効かない右手がレナの首筋に近づいたが、レナは即座に手を押し戻した。
「⋯⋯やだっ!!」
レナはトムの手を払いのけ、恐怖で息が上がりながらも必死に落ち着こうとした。
「どうして⋯⋯全てを受け入れるんじゃなかったのかい?」
トムの口は残念そうに呟いたが、自身の意志から発せられた言葉ではない為、彼の表情には「自己との戦い」のそれが浮かび上がっていた。
「あなたは⋯⋯誰!? トムをどうしようというの!?」
「誰って⋯⋯僕はトムだよ。わからないの? ああ、そうか。これは高校生の僕の体だから、君が理解できないのも当然か」
「⋯⋯!?」
「僕は今⋯⋯君からすればおじさんかもしれないけど、何も怖がることはないんだ。僕は僕で、昔から変わらずに君を愛している」
正常なトムの心は、自分の口から漏れる衝撃的な言葉に羞恥を感じた。たまらず彼は足先に意識を集中し、健康サンダルのツボを思い切り踏み込んだ。その痛みが彼の意識を一瞬で現実に引き戻し、レナの失敗作が思わぬ形で役立った。
「痛ぁッ!! ⋯⋯レナ! 逃げろっ!! これは僕じゃない!!」
しわがれ声ではない、普段のトムの声を聞いたレナは体の硬直が解け、同時に座っていたブランコを勢いよく突き放し、公園の奥へと駆け出した。
「どこへ行くんだい? 照れちゃって⋯⋯可愛いな」
「クソっ!! お前の好きなようにはさせないぞ!!」
サンダル効果のおかげで自由を得た左手が、暴走していた右手首を掴んだ。追いかけるかのようにレナの方へと伸ばされていた右手に対し、トムはさらに強い口調で言った。
「お前は、この間の『絵本』だな!? あの時も操られて、ページをめくらされたから分かるぞ!!」
「絵本? 君は何を言ってるんだ? いや⋯⋯自分だから『僕』と呼ぶべきかな」
「うるさい!! いつまでも怯えた僕だと思うなよ!! 自分自身に対してなら、全然怖くないぞ!!」
自制の利くトムは大声を出して自分を奮い立たせた。
「ああ、わかったよ。でも、少し静かにしててくれ」
左手に掴まれたトムの右手は、人差し指で小さく「何かを祓う」ジェスチャーをした。
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左手は途端に力が抜け、トムの左半身はだらんと意識を失った。
「やっと静かになったな⋯⋯おや? 左手に力が入らなくなったぞ? 中々やるじゃないか、僕め」
トムを封じ込めた侵略者は、レナの後を追うべく公園の奥へゆっくりと歩いて行った。
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