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小説『ワンダリングノート・ファンタジー』(15)取り乱して

Chapter15


「絵本の世界? そんなものなど、あるものか。というか、あってたまるか」

 こんな馬鹿げたことが起こるはずがない。なぜ僕がこんな目に遭う必要があるのだろうか。オカルトは確かに好きだ。怖いながらも薄目で、ホラー映画を何度も見てきた。興味本位から、開けてはならない扉のノブを回してしまった、僕のせいなのか? 僕の、僕の。

「ここはさっきの公園⋯⋯たった今、僕は身体を何かで縛り上げられて、痛くて、そのまま絵本のページの中へ引きずり込まれた。引きずり込まれました」

 落ち着け、と自分に言い聞かせる。パニックで独り言すら、ろくにできない。それなのに、こんな状況がまるで小説のネタになると感じてしまうのは、変なテンションも影響しているのだろう。優先順位だ、まずは落ち着ついて現実を受け入れろ。起こってしまったものはしょうがない。
 周囲をゆっくりと見回すと、いつもの公園が目に入る。夕暮れが迫る中、広場の時計台は午後5時10分を指している。時計台? あんな立派な時計台だっただろうか? ここに来ても、スマホの画面で時間を確認しているから気が付かなかっただけだろうか?

「そういえば、スマホ!! ⋯⋯は、ズボンの後ろポケットに入ってた。財布も⋯⋯ある!」

 今朝、部屋で着替えたこの学生服は何も問題はない。あの「絵本」とスマホと財布だけを持って、この公園に来た。所持品は何もなくなってはいない。記憶もしっかりしている。朝はスクランブルエッグを食べて、大好きな牛乳をゆっくりと飲んで、食休みしてから、リラックスした気分でここに来た。そしてレナと待ち合わせのベンチに座って──

「そうだ、レナだ。レナはどこだ? というか、もう夕方だぞ? 何だ? 何かがおかしい⋯⋯!!」

 胸騒ぎがする。吐き気もする。何か、とんでもない出来事が起こっている。僕の記憶が、いや、思考そのものが別次元へ向いてしまったようだ。


『NEDD I BROF』


「うっ⋯⋯! 今、アルファベットの羅列が頭に浮かんだぞ⋯⋯!」

 確かにアルファベットだが、意味がわからない。そもそも英語なのか? 別にアレルギーを引き起こしたりもしない。おかげで、さっきよりは幾分気が紛れた。今のうちに、次の優先順位を決めなければならない。

「レナだ! レナを見つけることだ! 約束をすっぽかしてしまったから、もういないかもだけど、だけど⋯⋯」

 思考より、行動だ。足を動かせ、前へ進め。


The world of a picture book? There's no such thing.



第14話     第16話

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