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小説『ワンダリングノート・ファンタジー』(22)砂のお城で
Chapter22
「はだしのトム! はだしのトム! バナナですべって一回休み!」
「あっ、壊すなよ! そんなの無しだよ! 漫画じゃないんだから!」
「なんで、お砂場でいつも靴脱ぐの?」
「だって、靴が汚れちゃうじゃん」
幼い二人は砂遊びを始めた。子供同士の、無邪気な会話の中でトムは夢中で砂の城を作っていた。両手でかき集められた砂の山を見たレナは得意げに言った。
「それ、なんて言うか知ってる?」
「え? お城だろ」
「違うよ。サンドキャッソーって言うんだよ」
「サンド⋯⋯って何?」
「砂のお城をエイゴで言うと、『サンド・キャッソー』って言うの。おばあちゃんに教えてもらったんだ。すごいでしょ!」
「ふ〜ん。なんか、カッコいいじゃんそれ。強いサンドイッチみたい」
「⋯⋯⋯⋯」
「え? どうしたの?」
「トムが褒めてくれた!! トムに褒められちゃった!!」
「わっ、何だよ!? お城が壊れるからちょっと待ってよ」
いきなり抱きつかれたトムは、照れながら答えた。
「じゃあ私、勉強する! 英語の勉強する! そしたらもっと褒めてもらって、もっとレナと遊んでくれる?」
「わ、わかったよ! カッコいいのは好きだから。でも、壊したら絶交だからな?」
「え〜! お城と私、どっちが大事?」
「どっちが⋯⋯って?」
"How important is it? As important as I am to you?"
「え?」
その言葉が響くと、トムは強引に現実へと引き戻された。もはや砂場で城を築く幼子ではなく、小説家としての夢に向かって日々を過ごす16歳の高校生であった。目を背けることのできない「確固たる事実」はゆっくりと錨を下ろすように、彼の全存在を揺さぶった。そして、先程とは比べ物にならない激しい目眩が彼を襲い、たまらず目を閉じて砂の上に両手をついた。
「ねえ、トムってば⋯⋯それってどのくらい大事なの?」
「⋯⋯え?」
「私と⋯⋯同じくらい⋯⋯?」
「え⋯⋯君は⋯⋯!?」
「この間の続き⋯⋯やっぱりちゃんと聞きたかったの⋯⋯」
静かに目を開けたトムの前にいたのはワンピース姿の幼女ではなく、学生服を着た「いつものレナ」だった。彼女は砂の上にしゃがみ込み、真剣な眼差しを彼に向けていた。
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