小説『ワンダリングノート・ファンタジー』(4)君を探して
Chapter 4
日付が変わる約1時間前、トムが息を切らしながら公園に到着した。行方がわからなくなったレナのことを、彼は思い巡らしていた。街灯の下の、いつものベンチに繋がる小道に差し掛かると、ぼんやりと人影が見えた。
「おや、君は⋯⋯この間の少年か? こんな時間に何をしてるんだ?」
懐中電灯の眩しい光を顔に浴びたトムの前に、以前彼を事情聴取した警官が立っていた。
「その⋯⋯ちょっと気になることがあって」
トムは戸惑いながら答えた。
「何か思い出したのか? だが、夜中にここに来る必要はないだろう。最近この辺りのベンチを、雑巾で念入りに掃除している不審者が目撃されたばかりだ」
警官は注意深く、周囲を観察していた。
「僕はあの時、彼女⋯⋯レナが『牛乳瓶』を持っていたという話はしましたが⋯⋯それだけに気を取られていました」
トムの声には後悔が滲んでいた。
「それはどういう意味だ? 他にも何か持っていたのか?」
警官の問いに、トムは静かに頷いた。
「はい、その⋯⋯」
その瞬間、警官は一歩後ろに下がり、トムの言葉を遮った。
「待て! 君は一人でここに来たのか? それとも他に誰かいるのか?」
「いえ、一人ですが⋯⋯」
トムは不思議そうに辺りを見回した。
「そこの草むらに今、誰かがいるように見えたんだが⋯⋯」
怯えた警官はそう言って、慎重に草むらに向かって歩き始めた。腰の引けた警官の足元を見たその時、トムの目に白く細長いものが映った。
「どうして気がつかなかったんだろう。僕が『忘れた時』のために、いつもレナが用意しておいてくれたことに⋯⋯」
地面には、トムが牛乳を飲むための細いストローが落ちていた。彼はそれを拾い上げ、確認しながら呟いた。
「一本だけじゃないはずだ。レナのことだから、きっと⋯⋯」
「おっと、そうだ。さっきの不審者の話だが⋯⋯なんでも口にストローを咥えていたらしい。洗剤でシャボン玉でも吹いていたのか? いや、冗談だが」
「その為にお巡りさんは、このベンチの辺りを探してたんですか?」
「それもあるが、公園の清掃員がすでに回収してしまったらしく、一本も見当たらないんだ。まあ、ストローに関しては正直興味はなかったんだが」
その時、トムは警官の背後に迫る黒い影をはっきりと見た。
「お巡りさん!! 後ろに誰かいる!!」
「何っ!?」
警官が振り返ると同時に、その黒い影は渦を巻きながら彼の体を取り囲み、手に持っていた懐中電灯は静かに、地面へと転がった。
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