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『某』で見つめ直す、ニンゲンの生き様

「なにがし」かと思ったら、「ぼう」でした。今回は、お名前は存じ上げていたけれど一度も読んだことのなかった作家さんの作品。表紙とタイトルが何だか気になったので読んでみました。

『某』- 著者: 川上弘美さん

唐突に始まるこの物語の主人公は、限りなく人間に近いのだけれど、生身の人間とはいくつかの性質が少し、もしくは決定的に違う、不思議な生命体。

意図的に、あるいは無意識に、「変化」をしたりしなかったりしながら、その時々で生身の人間としてほかの人間と同じように生活し、色々な経験を積んでいきます。ある意味、人間に「擬態」しているとも言える存在。

どこから何のために来たかも分からない「某」は、もしかしたら地球外生命体なのか?それとも突然変異のミュータント?明確な答えは示されないまま、年齢も性別も人種も母語も住む地域も様変わりしていく「某」の生き方、思考に、いつの間にか馴染んでページを捲っていました。

数は希少なようだけれど、そんな「某」には同類の「仲間」もいるらしいことが分かってきます。つい、彼らの目的は?と思いがちだけど、来歴も存在も謎は増えるばかり。しかも、それぞれの「某」毎でも、微妙に性質が違うみたい。

どうやら一つ確かなのは、「某」には人類を侵略したり危害を加えたりしようという意思は無さそうだ、ということ。それどころか、たくさんの人格や生命を経験することによって、人間的な行動や感情を密かに噛み締めているみたい。

人間のようで人間ではない「某」たちの生活や生き方を通して、いつの間にか読者である私たち自身が、少しだけ客観的な視点から人生や感情の機微を学ばせてもらっているような感覚にハマりました。

ニンゲンをニンゲンたらしめるものは、何なのか?

人を、何かを、誰かを愛するって、どういうこと?

老化も死も無さそうな「某」にも、終わりという概念はある?

生きるとは、何なのか?

「某」の変遷や成長を通して見る世界観がシンプルに興味深いだけでなく、そんな哲学的な問いを自分なりに立てて思いを馳せたくなるような場面も多々あり、スラスラと読める割に読み応えのある物語でした。

「愛するとはどういうことか」に対する、とある「某」の答えが、私はジーンとして好きだったな。

川上さんのほかの作品も今度ぜひ読んでみたいな、と思いました。何かオススメ作品をご存知の方はぜひ教えてください^ ^

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