ポタージュ:epilogue「月下獣」2
仕事が死ぬほど忙しくなりました。
自分で決めた週一は守りたいですがギリギリでございます。
さぁラストでございます。
ラストって難しいですね。ラスト感ってむずかしいです。手直ししていきたいです。
ポタージュ
世界を恨むな、と何処かの誰かが言っていた気がする。その人が言うには、どうやら世界は私が思っている以上に私を包み込んでくれているらしい。私がしらないだけで。けれどあたしは今、人生で一番世界を恨んでいる。包み込む?囲い込むの間違いでしょ?鼻で笑ってやった。
ついに教室にいられなくなった。ミカ達からの嫌がらせは止まないし、何より一人歩きした噂目当ての男どもがどうしようもなかった。逃げたと思わらてもよかったし、別に逃げたとも思っていない。でも、それ以上に今一人であり、独りであることが辛かった。
今日も空は青い。あたしがこんな気持ちなんだから、一緒に泣いてくれたっていいだろ、アホ。
音楽を聴いていれば、大抵のことを忘れることができた。でも今日は、それすらできない。重症だな。毅然としてたって人間しらないうちに疲れてるんだな。
嫌だな、独り。昼からサボってやろうか。
和希は壁にもたれながら、昼ごはんのパンをかじった。
意味もなく、時間だけが過ぎていくことにイラっとしたとき、聞き覚えのあるメロディが耳に流れた。あたしの携帯か?ポケットからスマホを取り出すが音楽は止まっている。じゃあ誰だ。
もたれていた壁にある窓から流れてくる。
窓を覗き込むと、視聴覚室で一人音楽を聴きながら寝ている奴がいた。
窓から視聴覚室に入り、イヤホンをしながら寝ているそいつのイヤホンを引っぺがして、自分の耳に当てた。
「あの…。」
びっくりしたそいつは、廊下で泣きそうになっていたやつだった。でも今日は暗い目をしてる。何か嫌なことでもあったのか。いや、それはあたしも同じか。出ないとこんなところにいないだろ。
「Dear Radioでしょ、これ。」
「知ってんの?」
空いていた窓から吹き抜ける風がカーテンを揺らす。暗かった視聴覚室に差し込む光が二人を包んだ。少しだけ、ほんの少しだけ、それが希望のように思えた。
「まさか学校でDear Radioの話ができるとは思わなかった。」
「あたしも。かっこいいけど古いもんね。」
この狭い世界ですら、あたし達は分かり合えない。その中で好きなものが同じなんて、そうないことなのかもしれない。
こいつ、なんかいいかも。
ねぇ、好きな曲何?
rewrite lightかな。歌詞がいい。
わかる。Cメロの歌詞が好きかな。
Cメロ最強説あるんだけどわかる?
めっちゃわかる。どの曲もそうだよね。
君はどれが好きなの?
bloom sideかな。元気になれる。
「曝け出して走れ」ってところがいいよね。
一緒。そこだよねやっぱ。
希望のような光が、細胞一つ一つに絡まっていく。なぜかこいつから目が離せない。
優しいやつ。視聴覚室に差し込む光を浴びたそいつは光そのものに思えた。光るだけじゃなく、こんな暗い目をしている。もしかしたらこいつの泣きそうなあの目は、本当に悲しんでいたのかもしれない。
あたしの世界を変えるやつ。そう思ってしまった。
「昼から、一緒にサボらない?」
何も考えずにそう呟いた。あたしはこいつと一緒にいたい。こいつとなら居れる気がする。
「僕でいいのか?」
是非もないことだった。
気がつくとあたしはそいつの手を引っ張って走り出していた。そいつがサボるといったかどうかは覚えていない。もしかしたら、答えを聞く前に走り出してしまったかもしれない。でもそいつも、見る限り笑顔だったし、それでよかったのだろう。
あたし達は夢中で走った。息がきれようとも、足がもつれようとも、全力で。こんなところにあたし達の居場所があってたまるかと言わんばかりに全力で走った。
空は全快の青空だった。やっとあたしと気があったな。あたしも今、少しだけ前よりマシだよ。
爽やかな風があたし達の背中を押した。
「そういえば、あんた、名前は?」
「伊澄、沢村伊澄。」
終。