「移ろう宝石」《Piano concerto No.17》
モーツァルト ピアノ協奏曲 第17番 ト長調 KV453
立体的な音色の輝きが四方八方から眼に植え付けられる
耳はとうにモーツァルトの奏でる音に支配されてしまっている
そう、耳ではなく眼に音楽が問いかけてくるのである
眼を通して移ろう音の宝石の輝きが脳裏に焼き付けられるのである
これほどまでの芸術的体験はかつてあっただろうか
幾多にも音符が光り輝き、自由に空を舞い、一瞬のうちに光が散っていく様子など考えられるだろうか
だが信じ難いことに、この現象は今、目の前で感じ取ることが出来るのだ
イ長調のKV453をじっくり聞けば体験出来る世界なのだ
そして誰しもがこの体験を終わりたくないと思い始める
問いかける音符、優しく触れる音符、気を満たす力の音符、どれもが居心地良く身体に取り込まれ、幸せの時が過ぎていく、ああ演奏が終わらないでほしい、その願いばかりが重なっていく
優しさに満ちた星屑の光が宙を舞い、あなたを照らし次の場面へといざなう(第2楽章へ)
まるで大きなプラネタリウムの中にいるような音楽
手が届きそうなところに星空が広がっている
少しシリアスな感じで星々を眺めては、その星の成り立ち、神話を聴き、その星々の世界に引き込まれていく
おや、涙を流すのはまだ早い、しかし星々の世界を知ってしまっては涙を流さずにはいられない
しんみりと星の光のように涙が顔を伝う
静かに美しさに触れて涙を流すことも悪くない(第3楽章へ)
いよいよ星々との別れ《移ろう宝石》はとどまることなく次の聴衆を虜にすべく飛び立っていく
名残惜しく、星屑の尾を大きく引きながら
最後に辺り一面に輝きをまき散らして
目の前を一杯にする
この別れは曲の終わりであって決してモーツァルトとの別れではない
なぜならば我々はいつでもKV453を聴くことが出来る時代にいる
この宝石をいつでも堪能できるわけだ
なんと幸せなことだろうか
それならこの別れもそれほど辛くない
星々がまたおいでよと問いかけてきて煌めきの中でこの《体験》は終わる🎵
おしまい
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