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「ビール、コミュニティ、公共性」とその先 新しい活動について

お陰様で私が主催する読書会も6回目となり、半年続けることが出来ました。これからも毎月1回、マイペースにやっていけたらと思います。ちなみに、次回10月14日は現役の醸造家に直接お話を聞ける時間を設けました。投げ銭は大歓迎ですが、基本的に無料なので是非ご参加ください。

さて、この読書会を通じて新しい活動が生まれました。今日はそのことを皆様にご紹介したいと思います。

7月21日の会第1部で「ビール、コミュニティ、公共性」というテーマでお話をしました。そこでの議論をコミュニティ内部の互助的活動へと接続し、具体的な形にしていきたいと思います。


「ビール、コミュニティ、公共性」

近年、お酒が少しずつ避けられているように感じます。Z世代は積極的には飲まないソーバーキュリアスだとも言われ、完全に禁酒をしている方もいるそうです。事実、お酒を飲みすぎれば体を壊し、病院のお世話になります。アルコール依存症もそうです。保険を使えば国庫の負担になるわけで、程度にもよりますが、お酒を飲むということは個人の健康に関わるだけでなく、社会に関係すると言って良いでしょう。お酒には公共性という概念が付随するのです。

飲酒によるマイナス面とその是正が公共に関係するということを申し上げましたが、その逆も考えられます。すなわち、飲酒が与える社会に対するプラスの側面についてです。たとえば、コミュニケーションツールとしてのお酒が挙げられるでしょう。節度を守りつつビール片手にコミュニケーションを取って親睦を深めれば世界平和が訪れるのではないかと、結構本気で私は考えています。

そこまで大きな話でなくても、近しい人達と仲良く過ごせればそれはとても幸せなことです。近しい人達の集団の維持・発展に努めることは社会的な生物である人間にとって有意義なものでしょう。そこでは金銭的な利益を享受することが必ずしも目的化せず、親睦・繋がりなど無形の何かで充足されます。孤立してお酒に逃げると依存症になってしまうけれども、お酒を上手に使って集団に属していけば孤立することもなく幸福を増やせるはずです。特にお酒に寛容な日本ならばそれが不可能であるはずがありません。

では、どのような人の集まるどのような集団であれば良いのでしょうか。日本は法律上アマチュア醸造家が存在し得ず、販売・流通も免許制なので、直接的なビールのやりとりにおいては「売り手・買い手」、「製造者・消費者」の構造に縛られます。そして、それが国家および法に関わるものなので一市民には如何ともし難い。加えて、地縁が薄まり、地域の共同体意識が弱まっている中、売り手・製造者と利害関係を持つメディア等によって、「売り手・買い手」だが何となく耳障りの良い【コミュニティ】という言い換えが言論空間の上で喧伝されます。この形だとどうしてもポジショントークが生まれ、フラットな議論は難しいように思います。

ですから、主体的行動をしている消費者を中心に据えたコミュニティ促進活動が出来ないかと考えたいのです※。前提として非営利、もしくはスケール拡大を求めない小規模事業で公共性のある活動を念頭に置いています。要するに、私から出発はするけれども、私個人の楽しみを超えて『私達』の為になる活動です。気が付けば今の世の中は自己責任論が跋扈し自助ばかりの気がするので、今こそコミュニティの互助的な活動が必要はないでしょうか。21世紀に相応しい新たな助け合いを検討してみたいのです。

厚生労働省は地域包括ケアシステムの枠組みの中で助けることを「自助、互助、共助、公助」の4つに分類し、そこでは以下のように説明しています。なお、太線は私が引いたものです。

「公助」は税による公の負担、「共助」は介護保険などリスクを共有する仲間(被保険者)の負担であり、「自助」に は「自分のことを自分でする」ことに加え、市場サービスの購入も含まれる。これに対し、「互助」は相互に支え合っているという意味で「共助」と共通点があるが、費用負担が制度的に裏付けられていない自発的なもの。

 出典 地域包括ケアシステムの5つの構成要素と「自助・互助・共助・公助」


出典 地域包括ケアシステムの5つの構成要素と「自助・互助・共助・公助」

アルコール依存症になった時の助けは社会福祉の観点からの「共助」で且つ「公助」だと考えられますが、マイナスの是正であってプラスの向上ではありません。ここではプラスになるものを考えたいわけですが、現代社会は地域との繋がりが薄く、金銭を介すると歪になりがちなので避けたいという気持ちもあります。そういう形態ではなく、クラフトビールを愛好する人たちが愛するものを同じくするという一点だけで充分繋がり合え、その集団内部で金銭の授受などを行わない、主体的且つ自発的な互助関係を構築出来ないでしょうか。

ここでのコミュニティは主体的行動をしている消費者の集団であり、趣味の縁で繋がった人たちです。ですから、近年注目されるシリアスレジャーの研究にもヒントが感じられます。以下はシリアスレジャーの定義について論文を引用します。なお、太線は私の引いたものです。

シリアスレジャーの定義 
シリアスレジャーの定義は、「アマチュア、趣味人、ボランティアによる活動で、彼・彼女らにとって大変重要で面白く、充足をもたらすものであるために、典型的な場合として、専門的なスキルや知識、経験の獲得と表現を中心にしたレジャーキャリアを歩み始めるもの」(Stebbins 2015: 5)である。すなわち、シリアスレジャーの本質は、長期的に専門性を追求して楽しむことにある。逆に、特別な訓練を必要とせず一時的に楽しむ活動は「カジュアルレジャー」となる。例えば、漫然とテレビを見ることは専門的なスキルや知識を必要としないためカジュアルレジャーであるが、アマチュアの映画づくりは映像制作の専門性を必要とするためシリアスレジャーになる。シリアスレジャーの実践者は、アマチュア、趣味人、ボランティアの3種に区分される。「アマチュア」とは、プロフェッショナルが存在する領域(芸術、科学、スポーツなど)におけるシリアスレジャーの実践者を指す。一方、プロフェッショナルが存在しない領域では、シリアスレジャーの実践者は「趣味人」となる。この区別によれば、プロも存在するオーケストラ活動に打ち込んでいる者はアマチュアとなり、プロは存在しない切手収集に打ち込んでいる者は趣味人となる。あえてこうした区別が存在しているのは、アマチュアを定義しようとしたステビンス元来の研究関心によるものだろう。また、「強制によらない自発的な手助け」の実践者が「ボランティア」とされている。

余暇ツーリズム学会誌第6号 レジャースタディーズにおけるシリアスレジャー研究の動向 -日本での導入に向けて-

ここで私が論じているのは「プロ醸造家と同じように醸造に取り組むアマチュア」ではなく、「プロが存在しない飲み手という立場で趣味として追究する趣味人」の方です。そして、その同じ趣味を追究する仲間同士であればボランティア的助け合いをが出来るのではないかと思います※2。

そこで私から以下の提案をします。
趣味を同じくする人が集まり、自分自身だけでなく未だ見ぬ未来の仲間も含めた同好の士たちのためにボランタリーな形で公共性のある有益な活動を無理の無い範囲で行っていきましょう。それは内側に閉じこもるのではなく、ちょっと外側にも開いた公共性のある活動です。

具体的には①間違った情報の訂正、最新情報へのアップデート、②知識、経験の共有および議論、③批判も含む意見論評などが考えられます。

私の立ち上げた読書会の内部活動として、手始めに広く開かれた公共空間であるwikipediaに「ヘイジーIPA」の項目を作りました。これは私達が確実に言えると思ったことのみを書いただけで、まだ完成ではありません。間違った情報であれば訂正して頂きたいですし、最新情報があれば追記してもらいたいです。Wikipediaの編集は難しいものではなく、特に既存のページの修正は思った以上に簡単です。どんな小さなことであっても気がついたことがあればガイドを利用して是非編集してください。

私達は醸造家ではないので原料や発酵に関する専門的な知見は持ち合わせておらず、そのあたりの情報も追加されなくてはなりません。まずは叩き台として上記を利用して頂き、議論できたら嬉しいです。きっとそれは自身の勉強になるだけではなく、未だ見ぬ未来の仲間の為にもなってくれるはずだと信じています。

ということで、こんな活動も始めました。少しずつですが、改良してビールファンの皆さんとゆるく繋がりシーンの向上に貢献できたら嬉しいです。


※1 会での議論の中で参考文献として、浅野智彦「趣味縁から始まる社会参加」を挙げました。
※2 参考文献として、杉山昂平 “成人の趣味における興味の深まりと学習環境の関係”を挙げました。

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