MRR別融資のポイント #02 MRR100〜500万円かつ創業1期以降のケース
スタートアップの融資を支援しているINQの若林( @wakaba_office )です。
全4回にわたって「MRR(*1)別融資のポイント」というテーマで、スタートアップが融資を利用する際のポイントを解説しています。以下は各記事へのリンクです。
MRR100万〜500万円かつ創業2期未満(本記事)
*1) Monthly Recurring Revenueの略。日本語では「月次経常収益」と訳され毎月決まって発生する売上を意味する
第2回目となるこの記事では、MRRが100万〜500万円かつ創業1期以降のスタートアップが融資を利用する際のポイントをお伝えします。
MRRが100万〜500万のスタートアップはフェーズでいうとシリーズA(サービス開始しておりPMF(*2)が見え始めている段階)やプレシリーズA(PMFを目指している段階)が多いと思います。
*2) プロダクト・マーケット・フィットの略。サービスや商品が市場で受け入れられている状態
このようなスタートアップは売上は伸びているものの、バーンレート(1カ月あたりのコスト)が上昇しているケースも多く、融資が難しいタイミングともいえますので、該当する企業の経営者の方はぜひ参考にしてください。
「MRRが100万〜500万円かつ創業1期以降」に当てはまるものの、融資による資金調達経験がないスタートアップの場合は、前回の記事を参考にしてください。
MRRが100万〜500万円かつ創業1期以降のスタートアップが融資で気をつけるポイント
前回と同様、MRRを「売上が安定している状況での直近3カ月の平均月商」と捉えることを前提に解説します。
MRRが100万〜500万円かつ創業1期以降のスタートアップが融資を申し込む際に気をつけるポイントは以下の3点です。
次の章から、それぞれ詳しく解説します。
「返済実績」と「追加融資か、借り換えか」の2点を確認しておこう
MRRが100万〜500万円かつ創業1期以降のスタートアップが利用すべき融資制度や金融機関は次の通りです。
日本政策金融公庫(以下、公庫)
保証協会付き融資
小規模事業者経営改善資金(以下、マル経融資)
女性・若者・シニア創業サポート事業(東京都の場合)
申し込みの際に金融機関から重要視されるポイントについては後述します。ここでは、過去に融資を受けたことのある金融機関から再度、借り入れを行う場合の注意点をお伝えします。
それは「返済実績」と「追加融資か、借り換えか」の2点です。
返済実績
まずは返済実績について。
融資の返済は基本的に分割払いなのですが、前回と同じ金融機関から借り入れる際には、最低でも6回以上、基本的には12回以上の返済実績が求められます。
ここでポイントになるのが、前回融資の据置期間。据置期間とは、元本の返済が猶予され利息分のみの支払いで済む期間のことです。
据置期間を長く設定していると、返済実績回数を積めなくなってしまうので注意が必要です。
コロナ関連の融資では1年以上の据置期間を設定している例も多く、スタートアップとしてはキャッシュアウト(企業資金の流出)を防げるメリットがありました。
その反面、返済実績を積めないことから次の融資を受けられないケースも散見されましたので、据置期間の長さはいま一度確認しておきましょう。
追加融資か、借り換えか
2つ目は「追加融資か、借り換えか」という観点です。
追加融資とは、1回以上取引のある金融機関から再度、借り入れを行うことです。
一方で借り換えは、前回融資の借り入れ残高(未返済分)を新規融資で返済し、残りを新たな融資として入金してもらうこと。
例えば前回の融資が1,000万円で、400万円を返済済みの場合、借入残高は600万円になります。
1,000万円 (融資額) - 400万円 (返済額) = 600万円 (借入残高)
これを1,500万円の新規融資で借り換える場合、600万円の借入残高を1,500万円から返済することになり、入金されるのは残りの900万円ということになります。ちなみに借り換えにより増額した分(この場合は900万円の部分)は「真水(まみず)」と呼ばれます。
1,500万円 (新規融資) - 600万円 (借入残高) = 900万円 (真水)
この場合、新規融資は1,500万円ですが、借り換えで前回の借入残高600万円を返済するため、入金される金額は900万円です。
追加融資で借りるのと、借り換えで借りるのとでは入金される金額に大きな開きが出るケースがあるため、事前に確認しておきしましょう。
借りられる金額の目安はMRRの2〜3倍
MRR100万〜500万かつ創業1期以降のスタートアップが融資で借りられる金額の目安は、300万〜1,000万円、連帯保証が付くことを許容できれば300万〜2,500万円です。
MRR100万〜500万のスタートアップの中にはエクイティ(株式発行による資金調達)で1億円以上調達しているケースもあるため、拍子抜けしてしまった方もいるかもしれません。
しかし、いくら事業が急成長しており将来性が見込まれていたとしても、融資で調達できる金額はMRRの2〜3倍が目安であることに変わりはありません。
連帯保証が付くことを許容した上で300万〜2,000万、少しストレッチして2,500万円が上限と考えてください。
重要なのは「前回の決算」「トラクション」「前回事業計画書との差分」
MRR100万〜500万円かつ創業1期以降のスタートアップが融資を受ける際に、金融機関から重要視されるのは次の3点です。
前回の決算
トラクション
前回事業計画書との差分
1つ目の「前回の決算」について。創業1期以降ということは、決算を終えているということになりますが、この決算に記載されている「年商」が借りられる金額の上限になることがあります。
スタートアップの中には、1期目の前半は開発にフォーカスしていたため売上が立っておらず、後半から急成長してMRRが伸びるケースも珍しくありません。
もちろん直近で伸びているMRRを元に融資を検討してはもらえるのですが、初めての取引の場合は金融機関も慎重になるため、前期の年商以上の融資をしてもらえないことがあります。
例えば直近のMRRが300万円だとするとその2〜3倍が融資の目安になるため、600万〜900万円の融資をしてもらえるのが一般的です。
しかし前期の年商が500万円だった場合、500万円以上借りられないといったことも起こりうるのです。
初めて取引する金融機関が相手だと、このようなこともありますので、早めに返済実績を作っておくか、返済実績のある金融機関を選ぶのが得策です。
2つ目はトラクションです。トラクションとは、事業の成長を予期させる進捗や勢いのことで、具体的には顧客数やユーザー数の増加率を指します。
トラクションが売上に紐付いており、安定的かつ不可逆に最低でも3カ月、できれば半年以上の伸びが見られれば問題ないと判断されるでしょう。
逆に言えば、直近1〜2カ月で売上が急激に上がっていたとしても、すぐに融資を受けられるわけではないということです。
そして、前述しましたが借りられる金額の目安はMRRの2〜3倍なので、どのタイミングで申し込むかによって金額も変わってきます。
自社のMRRを月次推移表で確認できるよう、バックオフィスを整えておくことも重要です。
3つめは「前回事業計画書との差分」です。
金融機関によっては、前回の融資を申し込む際に使用した事業計画書の提出を求められるケースがあります。事業計画書と、現在の事業実績に乖離がないか確かめるためです。
乖離が大きく、説明に合理性がない場合、今後の事業計画の信憑性に影響し、融資審査で不利になってしまう可能性があります。
スタートアップの場合、事業をピボット(方向転換)することも少なくありません。ピボットすると当然、事業計画書と実績との乖離が大きくなりやすいため、説明も難しくなるでしょう。
前回の事業計画書を見直し、実績との差分を確認した上で、「なぜ差分が生じたのか」を合理的に説明できるように準備しておく必要があります。
※前回事業計画書との乖離についてはこちらのnoteで詳しく解説しています。
まとめ
MRRが100万〜500万円かつ創業1期以降のスタートアップが融資を利用する際のポイントを解説しました。以下に内容をまとめます。
利用すべき融資制度や金融機関は、公庫、保証協会付き融資、マル経融資、女性・若者・シニア創業サポート事業
前回融資と同じ金融機関から借り入れる際は、最低でも6回以上の返済実績が求められる
追加融資か、借り換えかで、入金される金額に開きが出るため事前に確認する
融資金額の目安はMRRの2〜3倍、300万〜2,500万円
金融機関は前回の決算、トラクション、前回事業計画書との乖離を重視している
次回はMRRが500万〜1000万円のスタートアップが融資を利用する際のポイントについて解説します。
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