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【HANOWA(ハノワ)の新井さんと対談#02】赤字でも1億円の融資を確保するためにやったこと

スタートアップの融資を支援しているINQの若林( @wakaba_office )です。

前回に引き続き、私のPodcastに株式会社HANOWA(ハノワ)代表取締役の新井翔平(あらい・しょうへい)さんをゲストに迎え、お話いただいた内容をお届けします。資金調達手段を検討しているスタートアップ経営者に非常に役立つはずです。

今回は「赤字でも1億円の融資を確保するためにやったこと」。
#01はこちらです。

このnoteは若林によるPodcast「INQ若林のDebt&Alive」をテキストコンテンツとして再編集したものです。Podcastでは、起業家の方や起業準備中の方に向けて、デットファイナンスに関するTipsやノウハウを毎回5分程度にまとめてお送りしていますので、ぜひフォローしてください。

一般枠・危機関連枠・将来債権で1億円の融資を確保

若林:総額およそ3億円の資金調達のうち、1億円がデットとのことですが、その1億円の概要と内訳を教えていただけますか?
まず、どこから融資を受けているのでしょうか。

新井さん:日本政策金融公庫です。3回増額してもらいながら、形態としては資本性ローンでトータル3,000万円の取引をしています。

他に民間の金融機関3行と取引があるのですが、いずれも保証協会付きです。きらぼし銀行から 5,000万円、愛知銀行から1,000万円、りそな銀行から500万円の融資を受けています。

保証協会付き融資にはいくつかの枠があって、無担保で融資を受ける一般枠の場合は8,000万円が上限です。きらぼし銀行の5,000万円と愛知銀行1,000万円、合わせて6,000万円はこの一般枠で借りています。

さらにコロナ禍でフィーチャーされた危機関連枠(*1)で、りそな銀行から500万円を借りることができました。

残り500万円はフレックスキャピタルから将来債権という形で借り入れています。総額1億円を、このようにデットファイナンスで調達しています。

*1)大規模な経済危機や災害などによる信用収縮に対応するための融資枠

若林さん:素晴らしいですね。まず、公庫から資本性ローンで3,000万円借り入れているとのことで、これはいわゆる期間一括返済ですよね。返済期間は何年で組んでいますか。

新井さん:10年です。

若林:その10年間、元金の返済はせず、金利だけを業績に応じて支払う。その金利も業績に応じて変動するというタイプの資本性ローンで、3,000万円を借り入れていらっしゃるんですね。

それから民間金融機関を窓口とした、いわゆる信用保証協会の保証をつけた融資のうち、無担保無保証で融資を受けられる一般枠で6,000万円を借入。さらに、コロナ禍で注目された危機関連枠で500万円を借り入れされている、と。

あわせてFivot社が提供するFlex Capital という金融サービスの中の将来債権、つまりRBF(*2)で500万円を借り入れ、融資の合計は1億円になったということですね。

RBFで借り入れをした理由は、しっかりブレの少ない売上がある程度見込めていたからだったのでしょうか。

​​*2)Revenue-based financeの略称。将来の売上を、いま現金化する資金調達方法

新井さん:はい、そうですね。それに、新しくサービスをローンチしたタイミングでFivot社の意見も聞いてみたいなと思い、相談しました。Fivot社のランディングページを見ただけではSaaS(*3)にしか対応していないように感じたのですが、実際にお話を聞いてみたらマーケットプレイスでも、弊社でいう取引先となる歯科医院の数が積み上がっていて実績があるのであれば、取引したいと言ってもらえました。それを聞いて取引を始めたという経緯もあります。

*3)Software as a Service(サービスとしてのソフトウェア)の略。クラウドサーバーにあるソフトウェアを、インターネットを経由してユーザーが利用できるサービス。

融資を受けるポイント1:早いうちから融資の実績を作っておく

若林:前回『HANOWA』のトップラインは大きく伸びているものの、収支としては赤字という話を伺いました。基本的にはデット性の融資は、生み出したキャッシュフローの中から返済していきます。そのためスタートアップで非常に新規性の高いビジネスモデルに取り組んでいて赤字だと、金融機関としては取引しづらいと考えるのが一般的だと思います。それでも、なぜこれだけのデット性の調達ができたのか、ポイントをお聞かせください。

新井さん:ポイントはいくつかあるのですが、3つに絞ってお話しします。

1つ目は前回お伝えしたとおり、やはり融資を受け、返済した実績があったことです。これは大きく影響しましたね。個人事業主の頃に公庫から300万円を借り入れて、滞りなく毎月返済してきました。

その後、法人成りしてプロダクトをローンチしたのが2020年1月だったのですが、同年の3月からコロナ禍に突入しました。そのタイミングで公庫にコロナ融資をお願いしました。当時、弊社の月の売上は50万円に満たない状況だったのですが、コロナ融資で1,000万円借り入れることができたんです。仮に毎月50万円の売上が立ったとしても年間で600万円にしかなりませんし、利益を考えたら確実に赤字の状況だったにも関わらずです。

当時の社会情勢的に、国としても「1つでも多くの企業を救済しなければ」と考えていた時期だったでしょうし、そのタイミングで融資をお願いしたからこそ1,000万円を借り入れできた部分もあると思います。しかし、もしこれが初回の取引だったら、おそらく私たちは1,000万円も借り入れることはできなかったはずです。その1〜2年前から取引をしてきた実績があったのはプラスに働いたと思います。

若林:そうですよね。まず、コロナの融資を受ける時点で売上の減少が要件になるわけですが、その減少の基準となるような売上が『HANOWA』単体で見たら無かった。しかし個人事業主の頃に売上がしっかりあったため、売り上げが減少していることの証明になっていますよね。

仮に売上減少の要件が緩和されてクリアできたとしても、スタートアップで売上50万円というフェーズだと、融資の金額として2〜300万しか出なかった可能性もあったと思います。やはり新井さんが個人事業主時代に借り入れの実績があったことが、大きく影響していると考えられますね。

会社の立ち上がりの時期、しかもコロナ禍初期にこれだけの金額を借り入れできたのは、事業を展開する上でも大きなチャンスになったのではないでしょうか。

新井さん:そうですね。1,000万円の融資を受けていなかったら、この後に行なった2回目のエクイティファイナンスまで事業を存続させることは難しかったと思います。

「今は借りる必要はないな」と感じている経営者の方でも、融資の実績や公庫との縁を作っておくメリットがあると考えると、融資の相談だけでもしてみるのは良いのではないでしょうか。実績や縁ができると、本当に融資が必要になったとき、スムーズに取引が進むと思います。

若林:私が伝えたいことも、まさにそれです。融資が必要になってから大きな金額を借りようと思っても、公庫や金融機関からすると一見さんですから、融資しにくく感じるでしょう。やはり早いうちに実績を作っておいて、公庫などと初めましてではない状況にしておくのが、コロナ禍ではなかったとしても重要なことだと感じています。

融資を受けるポイント2:金融機関側のリスクを最小化させる

若林:ポイントの2つ目は何でしょうか。

新井さん:銀行など金融機関と取引する際に、金融機関側のリスクを最小化させることです。銀行の担当者さんとしても取引がしやすくなると思います。

2020年4月頃は、保証協会でも危機関連保証やセーフティー4号、セーフティー5号など売上が下がった場合に使える融資枠が存在していました。それぞれどう違うのか調べたときに、売上の減少幅がそれぞれ15%、10%、5%、それにあわせて保証率という数字があり、セーフティーの5号は80%、セーフティー4号は100%と設定されていることが分かりました。

りそな銀行の話を聞いてみたら保証率とは「保証協会付き融資を経由して貸したとしても、万が一の事態があっても80%は保証協会が面倒を見てくれる」という意味とのこと。つまり保証率100%だとしたら、融資した金額を確実に回収できるということです。保証協会が100%保証してくれるのなら、りそな銀行が懐を痛める必要はないと感じ、危機関連枠とセーフティー4号と2つあった枠のうち、条件を満たしやすかった危機関連保証を使って借り入れをしました。

若林:銀行員の方が上席に稟議をかけるとき提出する稟議書の項目の中に「保全」というものがあります。これは「どうやってこの債権を保全するのか」「いざというときにどうやってカバーするのか」ということを記載する項目です。まさにコロナ禍の危機関連保証が、保証協会によって100%保全される内容だったということですね。

危機関連保証を利用すれば、銀行側にとってリスクが最小化された状態でお金を貸せるというところが大きく影響した、と。きちんと制度を調べて、銀行側にとってもリスクが少なく、お金を貸しやすい方法を選択しているのは、素晴らしいと思います。

新井さん:若林さんの話を聞いてもう1つ思い出したことがあります。銀行の担当者さんが上席に話を通しやすかった要因として、東京都の中小振興公社という、中小企業の事業活動をサポートする組織から「事業可能性評価制度」という「都が認定する成長性のあるスタートアップです」と認定するお墨付きをもらっていたこともあるかもしれません。

その認定を取得するためには、都が招いた有識者たちと事業計画を作って、ピッチをするというプロセスがあります。この認定も稟議を通す上で加点要素になったのではないでしょうか。

若林さん:おっしゃるとおりですね。銀行の担当者が稟議を通すための手助けをする意味で、スタートアップが事業可能性評価制度の認定をとって 融資を受けているケースは散見されます。認定を取ることで絶対に融資が受けられるわけではないものの、加点要素はいくらあっても損にはなりません。取得にかかる時間や手間を考えた上でですが、認定を取得をするのは効果的な対策になると思います。

融資を受けるポイント3:スタートアップ支援に意欲的な担当者を見つけ、関係性を早めに強化する

若林:最後、3つ目のポイントは何でしょうか。

新井さん:スタートアップ支援をしたがっている銀行担当者が、何人かに1人、あるいは何十人かに1人かもしれませんが、絶対います。そのようなスタートアップ支援に意欲的な担当者を見つけることも非常に重要です。

弊社の例では、2回目のファイナンスリードを張ってくれた渋谷のVCの担当者さんからきらぼし銀行の担当者につないでもらい、そのきらぼし銀行の担当者さんから中小振興公社の事業可能性評価制度を活用した仕組みを提案してもらいました。

分からないことがあってもその担当の方に相談すればすぐに回答をくれたので、意欲のある方だったと思います。それに、きらぼし銀行は弊社に5,000万円を融資してくれています。一般枠の保証があるといえど、スタートアップに5,000万円を融資するのは、普通ではありえないことではないでしょうか。

若林:私も、新井さんがおっしゃるきらぼし銀行の担当の方を存じ上げています。私の目から見ても異常といえるくらいスタートアップフレンドリーな方ですね。素晴らしい方だと思います。

新井さん:とはいえ、スタートアップに5,000万円を融資するのは、若林さんでもあまり聞いたことのないケースではないでしょうか。

若林:そうですね。いくらスタートアップフレンドリーな銀行担当者の方と運良く出会えたとしても、やはり彼らも1人で融資の判断をするわけではありません。「一緒に稟議をクリアしていこう。突破していこう」というような関係性を作らないと融資の話は進まないと思います。

そのような関係構築のために、新井さんがやったことはありますか。

新井さん:弊社はVCに対して毎月実績報告のメールを送っています。その報告を銀行や公庫の担当者さんにも取引前の段階から送っていました。定期報告を欠かさず行い、関係性を強化していった形ですね。1つ目のポイントに戻りますが、やはり切羽詰まってからではなく、その前から関係性を作り上げることが大切です。

若林:資金調達に成功されたスタートアップのCEOやCFOにお話を聞くと、共通して定期報告を行なっているんですよね。そうでないと、スタートアップの将来性を公庫や金融機関に信用してもらうことはなかなかできず、例えば「足元の運転資金として2〜3か月分の資金を融資してもらう」というようなお願いは受け入れてもらいにくいと思います。

そのために、スタートアップフレンドリーな銀行担当者を見つけるということと、関係性をしっかり強化していくことの2つが非常に重要になります。

まとめ

株式会社HANOWAが1億円の融資を確保できた理由として、大きく3つのポイントを聞きました。

  1. 早いうちから融資の実績を作っておく

  2. 銀行など金融機関側のリスクを最小化させる

  3. スタートアップ支援に意欲的な担当者を見つける

2019年から2023年までの間に総額3億円を調達した株式会社HANOWA。当時はコロナ禍の真っ只中でもあり、エクイティファイナンスの環境が大きく変化するなど、激動の資金調達環境だったと思われます。

これからスタートアップを立ち上げようと考えていたり、現在は必要ないものの将来的に資金調達の可能性がある経営者にとって、新井さんの今回の話は非常に参考になる内容だったのではないでしょうか。

次回は、環境の変化と資金調達について聞いた内容をお届けします。

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