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天使のみなさま、祝福はリモートにて願います (10)オメデタイ

(10)オメデタイ


 内田家応接間のディスプレイには、引き続きWeb会議の画面。タエコのPCから、ボクたちも映像で加わった。
「ヨッシー、オペレーターお疲れさまでした。ばっちりだったよ」とタエコがねぎらう。
「よかった。上手くいって」

「そうだ、ナッチをツバサに紹介するね」とタエコ。
 堀家 奈智さんはタエコと同学年。マーちゃんとバンド「ルミッコ」で一緒だった。ギタリストでメインボーカルだった彼女は、高校卒業後ミュージシャンを目指して、東京の音楽専門学校に進んだ。2年のときに一念発起して留学コースに転科。感染症の影響で1年待機したけれど、昨年度からからニューヨークの大学の音楽学科で勉強して、いま2年目。
「ビッグになって、日本に凱旋するからね~」とナッチさん。
「ビッグにならなくてもいいから、無事帰ってくるんだよ~」とマーちゃん。

「早川先生。CGキャラクターのタッチはいかがでしたか」とボク。
「可愛らしくていいと思います。たぶんうちの生徒たちも気に入るでしょう。あとは実証実験に向けて、彼女らが選べる髪型や衣装のバリエーションをどうするかですね」
「了解です。皆さんはいかがでしたか。自分のキャラクターがどれか、すぐにわかりましたか」
 アニメーション映像は、教育ゲーミフィケーションPJのゲームのデモ映像として、AGLとして制作したもの。素材となる写真を提供してくれた方々の感想を聞くのも、仕事の一環だ。
「うんうん。すんご~くよくわかった」とミクさんが食いついてくれる。
「私もすぐわかった。すごいですね」とリツコさん。
「僕もよくわかった。たいしたもんだねえ」とタイさん。
「私じゃないんだけれど、それでも確かに私」とルカさん。

「キャラクターは、合同会社TALESで実用化しようとしている、写真合成技術を使ったんだよね」と恵一お兄さま。
 ヨッシーさんがPCを操作して、もう一度アニメーション映像を映してくれた。
「はい。なかなかの優れもので、写真データを取り込んでから1キャラクター5分くらいで完成するんです。手をかけるのは少しだけで、いろんなタッチにも対応できるし、大人数で写っている写真からでもOKです」
「CGデザイナーが調整している工程を自動化できたら、完璧だね」
 合同会社TALESは、AGLが参画している教育ゲーミフィケーションPJのために設立されたジョイントベンチャー。恵一お兄さまは勤め先の法律事務所で、TALESの立ち上げのときから、会社設立手続きや契約などを担当されている。

「あの、ひょっとしてノエル先輩もいましたか?」とコトネさん。
「はい。ミカさんからいただいた写真をもとに合成しました。ヨッシーさん、写真映せるかな?」
「ええと、これかな?」
 ノエルさんが桜並木をバックに、ニッコリと笑いながらピースサインをしている写真が大きく映った。
「この写真はね、彼が亡くなる8ヵ月前、高校3年の4月に城址公園にお花見に行って、頼まれてマジで遺影用の写真を撮った直後に写したものなの」とミカさん。
「あの、ひょっとして...」とカケルくん。
「そう、遺影のあとに『イエーイ』...」
 一同しばらく沈黙の後、タイシさんが口を開く。
「『三つ子の魂、冥土まで』というか、『ノエルは死してオヤジギャグを残す』というか」

 しばらくよもやま話で盛り上がったあと、「解散」ということになった。
「みんな、今日は本当にありがとう」とタエコ。
「ありがとうございました」とボク。
「天歌(あまうた)のみんなと、それからナッチと話ができて、楽しかったよ」とマイさん。
「私も。じゃあ、みんな元気で」とマーちゃん。
「ナッチ。元気でね~」
「ああ。タエコも頑張りなよ」
「それじゃあ」
「じゃあね」
「じゃあ」
 ...
 ひとつひとつ、Web会議の区画が消えていく。最後にヨッシーさんの区画が消えると、ディスプレイは真っ黒になった。タエコが電源を落とす。

 昼食は10人で囲むことになり、テーブルがひとつ追加になった。おじいさまとおばあさま、タエコとボクが向き合う形で座った。
 天歌市で一番といわれる日本料理店から届けられたお料理。海産物にお野菜、炊き込みご飯にフルーツなど、色とりどりのお料理が詰め合わさった箱型のお膳に、お刺身のお鉢とお椀。
 そして中央に、大きな鯛の姿焼き。
 おじいさまの音頭でビールで乾杯。
「鯛が『おめでたい』になって、ほんとよかったですよ」とおばあさま。
「なんの。駄目なら『こりゃ痛い』と言って食べればよいのだ。はっはっは」とおじいさまが笑う。
「恐るべし、オジジギャグ」とタエコがぼそり。

 おじいさまの笑い声が合図になったように、みんなお料理に手を付ける。
 しばらくすると、昨晩と同様に男性陣とお母さまが日本酒に。ボクも酔い過ぎない程度でご相伴にあずかる。
 恵一お兄さまは、あとで駅まで送ってくださるのでアルコールは抜き。
「気にしないで。慣れてるから」

 昨日の晩喋れなかった分を取り返すかのごとく、おじいさまがよくお話しになられた。若い頃の苦労したことや、嬉しかったときのこと。家族の逸話。ときどきおばあさまが相槌を打たれる。孫たちのお話のときは、やはり二人揃って目を細められる。

「婚姻届はいつ頃に出す予定?」と恵務お兄さま。
「そうですね。まずは住むところを探して、引っ越しのタイミングですかね」とボク。
「ゴールデンウィークあたりを目途にしたいと思う」とタエコ。
「お母さまとは離れて暮らすのですか?」とおばあさま。
「職場に通う便を優先すると、やはりそうならざるを得ません」
「さぞや寂しかろう」とおじいさま。
「結構サバサバした性格なので。大丈夫だと思います」
「それでも、ちゃんと顔を見せてあげなさいね」とおばあさま。

 12時半頃に始まった昼食は、2時半頃に終わった。
 おじいさまとおばあさまが立ち上がって、ボクに向かって言う。
「わしらはこれで失礼します。離れで休みますので。気をつけてお帰りになられるよう」
「タエコのこと、重ね重ねお願いしますね」
「はい。おじいさま、おばあさま。お元気でお過ごしください」とボク。
「また来ますので、それまでお元気で」とタエコ。

「コーヒーでも淹れましょうか」と言って真弓美さんが立ち上がると、ヨッシーさんが続く。
「未来さんは、すっかり家族の一員ですね」
「ほんと気が利く、いいお嬢さん。タエコには悪いけど、大違いだわ」とお母さま。
「一緒になったら亭主関白気取るんじゃねーぞ、アニキ」とタエコ。
「わかってるよ。それよりタエコのほうはどうなんだ? ツバサくんに頼りっきりじゃないだろうな」と恵一お兄さま。
「炊事系はボク、掃除系はタエコさん、洗濯系その他は代わりばんこってところですかね」とボク。
「やはり食事は作るより食べるほうが得意ね、タエコは」とお母さま。
「面目次第もごさりませぬ」とタエコ。

 キッチンからいい香りが漂ってくると、ほどなくコーヒーが運ばれてくる。
「ツバサ君のお母さまを、いつ頃ご招待しようか」とお父さま。
「桜の頃がベストだけれど、最近は時期がはっきりしないからねえ」
「じゃあ、ルミ女の文化祭のときは?」とタエコ。
「それはいい。新緑の城址公園も綺麗だし、タエコの出身校をご案内できるからね」
「私の出身校でもありますよ」とお母さま。
「私も」と真弓美さん。
「あの...一応、私も」とヨッシーさん。

<続く>

★リンク先はこちら

作品紹介→https://note.com/wk2013/n/n4a6f336c637d

(9)→https://note.com/wk2013/n/n86854d536f33

(11)→https://note.com/wk2013/n/nc26d7066eee4

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