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<スペシャル対談>会話が熱量の源泉に!会話AIで広がるコミュニケーション×習慣化×ヘルスケアが融合する世界(前編)

会話AIエージェントサービスのプラットフォームを開発する株式会社エキュメノポリスは、早稲田大学グリーン・コンピューティング・システム研究機構 知覚情報システム研究所の会話AIメディア研究グループの研究員の皆さんが中核となって設立した大学発のスタートアップです。
 
弊社代表の森谷と同じ早稲田大学文学部出身でもある、エキュメノポリス 代表取締役の松山 洋一 氏をお迎えした今回の対談は、2人とも言語を入り口としてコミュニケーションへ関心を持ったという共通点もあったからでしょうか、挨拶の瞬間からタイムリミットぎりぎりまで話が尽きることがありませんでした。
 
開発中の会話AIについて、言語の深さ、コミュニティーと会話の重要性など、話の赴くままに、思う存分語りつくした対談を前後編でお届けします。

・株式会社エキュメノポリス 代表取締役
 早稲田大学グリーン・コンピューティング・システム研究機構 知覚情報        システム研究所 客員主任研究員 (研究院 客員准教授)松山 洋一 氏
・株式会社WizWe 代表取締役CEO 森谷 幸平


インキュベーションの場としての次世代英会話学習支援AIの研究開発

森谷:どういったきっかけで会話AIの開発を英会話で始めようと思ったのですか?

松山氏(以下、松山):英会話のコースを考えてみても、いろいろなトピックがあって、今日はビジネス英会話、日常英会話などタスクが分かれますよね。ですから、一つ一つを見ればそういう最適化されたタスク会話なので、一つ一つ攻略していくことができます。インタビューをはじめ、ディスカッションや〇〇会話といったものを攻めていくこと可能ですよね。そうすると、とても戦略的に会話の知能を育てることができます。

 今、日本でも世界でも英会話能力の判定や、指導をする上で下敷きになっているのはCEFR(ヨーロッパ言語共通参照枠)で、これは非常に奥深い思想です。ヨーロッパは多民族でいろいろなバックグラウンドを持った人がいますので、戦争を回避するための知恵として生まれてきたとも言えます。

 共通言語がないとコミュニティーが崩壊しますよね。CEFRは、ヨーロッパという一大コミュニティーを維持するための施策でもあるとも言えると思います。でも、英語を使うからといって全員イギリス人になることを目指すのではなくて、それぞれの地域やカルチャーのアイデンティティーを維持しながら、他者とどうコミュニケーションするべきか。その共通プロトコルとしての英語なりフランス語なりを第二言語として学ぶという考え方です。

それぞれの社会的なバックグラウンドを尊重しながら相手に伝えたり、相手に行動を促したり、何か共同でタスクを達成するにはどうするか。その能力をどう判定したり指導したりするかという知見の集積です。

 私は、会話AI研究者としてこの考え方に感銘を受けました。会話AIを今後10年20年かけてどういうふうに発達させていけばいいのかを考えたときに、この第二言語習得の発達モデルというのは非常に参考になるなと思いました。

人がそういう複雑なコンテキストの中で、人とうまくやっていくスキルを学ぶように、われわれの会話AIにもそういう技術を学ばせるべきだと思うわけです。そうすることによって、人間と共存できる社会的AIができると考えるからです。

違うバックグラウンドの人たちとどうラポール(親密な信頼関係)を築いて、どう同じ意思決定に向かっていくのか。あなたはこうですね、自分はこうですね、でもこういう落としどころにしましょう、といったことがあるわけですよね。私たちが英会話を学ぶ意義はそういうところにあるのだろうと思っています。

文法や語彙のような言語知識というのももちろん必要なのですが、異なる背景を持つ相手を理解し自分の伝えたいことを相手に適切に伝える能力ことこそが重要なのだと思います。CEFRでは「action-oriented approach(行動中心アプローチ)」として語られていたりします。これは会話AI研究者としても非常に共感するところがあります。

 森谷:確かに。

松山:私たちは、相手の言った表層的な表現だけでなくて、その背後にある相手の意図をくみ取りながら、会話を展開します。日本では文法・語彙知識の習熟度など、どうしても測りやすいところに教育の目的が寄りすぎてしまう傾向があったと思いますが、われわれのLANGX(ラングエックス ※1)というプロダクトの「X」というのは「体験」を表すわけですけれども、そういう、社会の中で他者との会話を通して一緒に何かを達成してく体験プロセスにこそ価値を置いて、そのために言語知識を再整理していくようなやり方を啓蒙していきたいと思っています。

 (※1)LANGX:Immersive Language Experience.会話AIエージェント搭載型バーチャルエージェントとの英会話学習新体験サービス

 森谷:共感します。一緒ですね。

 松山:現時点での英語習熟度レベルが低かろうが高かろうが、会話はできるはずですよね。できた、伝わったというこの感動、体験が大事だと思っています。AIですから、発音や文法のフィードバックは当然かけられます。われわれは、あらゆるマルチモーダル情報を用いた非常に正確な能力判定技術を持っていると自負はしていますが、あくまでそれは分析ツールとして捉えて、とにかく言語学習者自身が現在持っている言語リソースを使って、戦略を立てて巧みに任意のタスクを達成するという能力を如何に養成してもらうかを考えています。

 森谷:言語から入ったのは正解ですね。

 松山:そうですね。言語というのは本当に深いものだと思っています。われわれの英会話事業の成否は現時点では評価できないですが、このような社会的なAI技術を高める箱庭としては、英会話は最適なドメインだと信じています。そこで培われる深い知見と技術こそが、われわれが獲得したいものなのです。

そうしてく中で、成熟した技術を少しずつ社会に出していきたいと思っています。例えばインタビュー型の対話も熟れたものになってきたので、他ドメインへの転用の可能性も出てきています。つまり、われわれにとって英会話事業とは、技術インキュベーションの場でもあるのです。

 森谷:基礎思想が私と一緒で驚きました。私も言語からヘルスケアになっていますが、基本はコミュニケーションですよね。大学のときにずっと興味を持っていたのは社会変動とコミュニケーションでした。最初に言語業界に行ったのは入り口が言語だからですね。

 松山:同じ早稲田大学文学部出身ですよね。私もそこを出発点として社会や人間を考えていく中で、コミュニケーションを探究する道具としてロボットやAIを駆使することを覚えて、結果会話AIの研究者になりました。一貫して興味があるのは、要するにヒューマニティーです。AI技術が進展するほどに、人間性のあり方がより深く問われていくのは当然のことだと思います。

 森谷:私の場合は、今のWizWeの母体となった早稲田大学の文学部から出ている会社WEIC(WASEDA Educational Institute of Chinese:早稲田大学中国語教育総合研究所)において、語学eラーニングの学習継続が本当に難しくて、ずっと悩んでいて、そこが出発点ですね。

言語の学習をやり抜くための「習慣化の起爆剤」というか、「最初の一歩のモチベーションの起点の創出」という点で、熱量を生むために、どうしたらよいか、2010年頃からずっと試行錯誤していて、ようやくたどり着いたのが、「ヒトとヒトが話す。学習をスタートするタイミングで、学習参加者が目標設定について、あーだこーだと楽しく話す」という会話のパワーでした。「ヒトとヒトが話す。話す、聞くの連続があると自然に熱量が生まれる。モチベーションが生まれる。」この、会話が持つパワーというのを転用して、習慣化の初期的なものをつくり上げて今に至ります。

一歩一歩改善してSmart Habitという習慣化プラットフォームをつくっていって、それがヘルスケアでも効果があったという感じですが、そもそものきっかけとなったのは言語学習における継続の困難さという課題感でしたね。

日本人にとって英語を学ぶとは?

松山:CEFRにはプルリリンガリズム(複言語主義)という思想も埋め込まれているのですが、要するに、一個人の中に複数の言語を持っているというような。例えば、私は東北出身ですから、時々東北弁が出てくるというような感覚で、一個人の中に英語も日本語、あるいは初歩的なフランス語といった複数の言語の能力が相互補完的に混在していて、相手に合わせて持ち合わせた言語リソースをフル活用してコミュニケートしていく力が重視されるという考え方ですね。

 森谷:Common European Framework of Reference for Language『s』ですからね。その出自があるからLanguage『s』 (複数形でSがついている)というのは非常に深いです。

 松山:でも、最近英会話事業をしていてCEFRを無批判に援用しているようなところがあって、罪深いなと思うこともあります。言語コミュニケーションは社会的な文脈に根ざしているため、日本人が英語を話すのとヨーロッパ人が英語を話すのは意味が違うわけです。日本は島国ですが、ヨーロッパの人たちが地続きの隣国とうまくやっていくための英語とはモチベーションが違いますよね。だからCEFRをそのまま日本人にインストールできるのかと問われるとよく分かりません。難しい問題だといまさらながら思い知っています。英語を話すとはどういうことなのだろうと。

 森谷:私はアメリカにいたのですが、英語を話すときは人格が変わってしまいますね。そういうものかもしれないです。

 松山:分かります、すごく変わります。英語にスイッチするとオペレーティングシステムが変わりますよね。

 森谷:そうですよね。思考回路が完全に変わっている感じがありますね。そういうことかもしれないですね。

 松山:世界へのアクセスの仕方が変わるから文字通り世界観が変わりますよね。それは間違いないと思います。

 森谷:日本人にとって英語を学ぶとは第二の自我をつくること。大変だ。

 松山:大変ですよね。でも、それが大事だと思っています。つまり世界観が相対化するじゃないですか。私自身の経験としては、英語を学ぶことによって日本語が発達した感覚があります。例えば、論理的思考力。第一言語だといい加減だったことが第二言語を通して整理されていきますよね。それが他言語を学ぶ意義だと思っています。ですから一つの人格の中で、らせんの様に発達させていくことが言語の学び方なんだろうと私は思っています。いわゆる第二言語としての英語は比較的に複雑な言語ではないと思うので、第一言語を相対化して知性を発達させるためには非常に便利だと思いますね。

 森谷:日本人が英語を学ぶ大変さがよく分かりました。

 松山:英語を学ぶというモチベーションについては、自分なりのキャリアをどうつくるかということと、英語能力を身に付けるとを一体にして考えないとやはり難しいですよね。会話能力は武器であって、生きる力そのものだと思っています。

私たちは第一言語でも第二言語でも言語能力を獲得して実際に糧を得ていきます。みんな英語の先生になるということではないですから、日本人が英語を勉強するというのはどういうことなのかについて深く考えないといけないわけですね。われわれは罪深いことをやっているんじゃないかと時々思うことがあります。

 森谷:哲学がありますね。

会話AIエージェントInteLLAヘルスケア分野での可能性

松山:WizWeさんの最近の動向に大変興味があります。これからはどうなっていくのですか?

森谷:ヘルスケアですね。教育はもちろんあるのですが、ヘルスケアのTAMがすごく大きいですね。事例が複数公開可能になってきて、弊社のサービスがヘルスケアで成果を出せることが分かりました。まだまだ少なくて、件数はこれから更に積み上げていかなければいけないのですが、それだけ課題が深いのと解決できそうというところで。InteLLA(インテラ※2)ヘルスケアはどうでしょう?

※2言語学習支援エージェント「InteLLA」
言語学習者の習熟度や理解度に合わせて会話を調整することで能力を引き出し、言語運用能力を効果的に評価することを目的に開発。ウェブブラウザ上でビデオ会議のように手軽にInteLLAとの会話を始めることができる。

 松山:できそうですね。実際、ヘルスケア分野でお声掛けいただくことが増えてきています。WizWeさんがされている習慣化については得意技ではないですが、ワンタイムのインタラクションを人間と同等に実現するというのはわれわれのミッションですから、ご一緒できることもあるかなと思っています。

 森谷:目標設定をAIがしたら最高なのではないでしょうか。初期ヒアリングインタビューなど、比較的深いインタビューが必要な際に、10~30分くらいの会話応酬を全部人間がやるとなると、詳細ヒアリングができるような人というのは希少性が高いため、人が足りないということが発生するように思います。

例えば、企業の健康増進の場合、対象人数が数千、数万人。BtoCのヘルスケアの場合は数十万人、数百万人という、大量人数になる可能性もあります。こうした時に、AIがインタビューを再現できると、人が不足している際にも補完ができそうですよね。初期的なインタビューで、状況が言語的に切り出されて、目標設定がきちんとできると習慣化できますから、AIでの目標設定が終わった後に人間が頑張りましょうと電話する流れで。

 松山:それはいいですね。できそうです。

 森谷:すごくニーズがありそうですよね、目標設定自動化。

松山:今、インタビューを極めようと思っています。たった10分の世界なのですが、やればやるほどインタビューは深くて。

 森谷:素晴らしい。解決パターンが出たときの解決策の処方は大体決まっています。つまり、出口は明確です。インタビューを通じて、どのパターンに入れるかというところを専門知識を持った皆さんがやりますが、ここにAIもフォローできそうですよね。結構いけると思います、習慣化の処方のところは。

 松山:いけると思います。われわれも、InteLLAに英語能力や理解力を相手の様子に合わせて、様々なレベルでパーソナライゼーションをさせています。

 森谷:2月に資金調達を発表したのですが、エムスリー様が資本参加してくださいました。エムスリー様とのコラボなど、いろいろ可能性は広がりそうな気がします。

 松山:InteLLAは言語学習支援のための名前ですが、InteLLAエージェントは最初は無垢な状態ですので、コンテキストとドメイン、エキスパートの知識などを逆に着せていただいて、こうしろといえば実際ある程度は動けると思います。面白いですよね。

 森谷:インタビューはどこにでも「ハマる」ような気がします。

 松山:われわれは、InteLLAの次の就職先を考えています。他の業界がたくさんあるわけですが、ヘルスケアのTAMは大きいのですね。

 森谷:大きいように感じます。

 森谷:初期的な会話プロトコルのコメントはたまっています。インタビューデータについては、まだため切れていないのですが、その後のコメントデータは全部たまっていますので、割と面白いことになりそうですね。

 松山:それはお力になれそうな気がします。産業の中で、一人一人微に入り細に入りインタビューするのはものすごく労働集約的だし、コストがかかるわけなので、そこはある程度自動化の余地があります。しかも属人性を排して、いいインタビューを安定して行う。できるだけ廉価に信頼を積み重ねながらというところですので、面白いです。

 実は、アメリカでヘルスケアをワンチャレンジしたことがあります。英会話に参入する前は、カウンセリングをやろうと思っていたのですが、そのときはデータにアクセスできませんでした。アカデミアとしていくと非常にセンシティブですよね。ここの参入障壁が高すぎて研究ができませんでした。

そこで諦めて、いろいろな理由で英会話に参入したので、そういう意味ではよかったのですが、本当はそういう難しいところにニーズやペインがあると思っていますので、また戻りたい気持ちもすごくありますね。

<スペシャル対談>会話が熱量の源泉に!会話AIで広がるコミュニケーション×習慣化×ヘルスケアが融合する世界(後編)に続く