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2.ブリーダーの責任

イヌも千差万別です、まちがいなく。ヒトとイヌはその知覚世界が大きく異なります。しかし、ヒトもヒトによって世界が大きく異なるように、イヌもイヌによってその世界が大きく異なることはまちがいないでしょう。

その個体差の遠因が、成長後の生活環境のみならず、胎仔期の胎内環境や出産直後の母親のケアなどにもあることが明らかになってきています。

「この2M(子宮内で両隣がオスの場合)と0M(どちらの隣にもオスがいない場合)の違いはそのまま成長後の雄特有の行動発現にも影響を与えるようで、2Mの雄は0Mの雄に比べて性行動の発現が大きく、またマーキング行動、攻撃性も高くなることが知られている(脳とホルモンの行動学 近藤保彦他 西村書店 2010年)」
つまり、子宮内で隣にオスがいたかどうかで、行動の傾向に差が見られる、というわけです。行動の決定要因が子宮内でのホルモン差だけに依拠していると結論づけしているわけではないのですが、子宮内環境が成長後の行動に影響を与えていると考えられる研究結果が示されたものです。

また、胎仔の時に、母親が受けるストレスによっても差が出る可能性が高いことも示唆されています。
「妊娠期の母親が社会的あるいは身体的ストレスにさらされると、その後の子の神経内分泌系、あるいは行動に変化があることが示されている(同書)」

ただし、母親のストレスに関しては胎児期の影響として結論づけているわけではありません。

「(母体と胎仔の関係でいうと)母体由来のグルココルチコイド以外の因子としては母性行動が挙げられる。妊娠期にストレスを受けた母体において、出産後の母性行動の低下がいくつかの動物種で認められている(同書)」
つまり、妊娠期に母親が受けるストレスで子のホルモン分泌の差は認められるが、出産後の母親の母性行動(母親として子どもを守りかわいがる行動)も自らが受けたストレスにより差が出てくる。つまり、仔イヌの性格が妊娠期の母体が受けるストレスに影響されると言っても、それが胎仔期に子が受けるホルモンの差によるものか、出産後の母親の母性行動の差によるものか、はわからないというわけです。

いずれにせよ、問題行動となるイヌの行動選択の原因が、胎仔期のストレスあるいは出産直後の母性行動にもあるとすれば、仔イヌを世に出すブリーダーの責任はかなり大きいのだろう、と思います。


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