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夢の観光鉄道尾瀬観光線 第10回最終回「群馬県知事殿」

拝啓 群馬県知事 殿

貴下ますますご清祥のこととお喜び申し上げます

小官は元自衛官です
艦艇や航空機に関りのある世界で三十三年間勤務しました

現役中は艦艇乗組員や新造艦艇の建造に従事し
また航空機修理にかかわる部署に勤務した関係で
自らの目で多くの造船・航空機関係のメーカーの
工場や生産現場を拝見し
契約や調達に関わる折衝や業務研修などの機会を通じて
日本のモノづくりを体験しました

そして日本の製造業が
なぜ評価されるのか
その実力を垣間見る機会を得ました

小官の職務は末端の微力な任務ですが
日本の艦艇・航空機の安全で効率的な
運用に携わった者の矜持を現在も有しております

現在は定年退官し民間に暮らしております

大学では観光・運輸関係の地誌的分野並びに
実学として交通体系を学び
日本の鉄道やバス事業について
一定の知識と学問的考察を有しています

知事の行政手腕はイチ地方のアイデアマン首長として収まる程度のレベルではなく

「地元を愛しいかにして群馬県を観光立国として具現化するのか」

その意図と実行力に常に驚かされ尊敬している次第です

特に地元草津をモデルとして県内各所で展開する
観光振興には刮目してその動向に関心をもっております

ニュース報道や広報などを通じた発信力は知事のバイタリティーを源泉とするものでしょうか

その汲めども尽きぬアイデアは

草津の湯のごとく

高温のため湯畑で冷まさなければ利用できないほどですが

マグマの熱量が群馬県各所へ伝播するためには
温度も必要だという見解はむべなるかなと感服する所存です


さて今回小生が提案したい群馬県の観光振興は尾瀬の積極的な活用です

尾瀬は自然環境が十分に保存された
世界的にも類例のない「成功した自然公園」です

尾瀬の動植物環境は
「汚染の少ない天然の環境と人為がほとんど介在しない景観」
が醸し出す極上の風景です

多くのハイカーや登山者の大半がリピートする理由は
「他の自然公園には真似できない清浄な場所が由縁では」と感ずる次第です

一方で尾瀬地域は「夏の思い出」の歌詞同様に

「はるかな尾瀬」となり

アクセス手段が限定される特性ゆえ「誰でも手軽に訪れること」が叶わない

特別の自然公園として
来訪者が年々減少しております


自然公園は天然のまま

風景に人間の営力が及ばないことが望ましい
そういった風潮が現実に存在することも承知しております

その場合「尾瀬の自然」は単なる自然となり

「公共の公園として訪れるお客様へ感動や学習体験」を提供するという

「自然公園」の定義から脱線する危険があります

尾瀬の魅力は「木道という質素な道具」によって
人間と動植物を隔て

最低限の人為で節度を持ったハイカーや登山者がもたらす

共存できる空間だと思います

自然公園が「特殊な装備や道具」を持った熟練の登山者のみが訪問を許される場所とならば
国立公園法の制定意義と乖離する特別な公園となります

自然公園は人間の力で自然を守り

その空間を体現できてこそ教育を施せます

人間と自然環境の関りを学んだ者の多くは
人為で作られた「ニセモノの景色」と
自然の造営力によって形成された景色との差分を
きちんと認識できる人間力の醸成が可能になると考えます


本来であれば尾瀬へのアクセス手段は

国民や諸外国から訪問された観光客が
適切な対価を払えば何人もその利益を得られるべきと存じます

しかし現行においては
輸送機関の人材不足や燃料・諸器材の高騰により

「かなり高額の料金負担を伴わなければ訪問できない自然公園」

という状況です

その点は聡明な知事は当然ご存じのことでしょう


現在民間事業者によって運営される交通手段は
本来であれば公共性がありながら

「民間事業には営利が伴うので公費はなるべく少なく支出する」

という蒙昧な思想により

公共性によって住民の足となるべきバス路線や鉄道路線すら
維持するのが困難な状況へ立ちいっております

国土の均衡ある発展を嘱望する観点から
下記の提案により
尾瀬観光鉄道会社を設立しその初代社長に知事自身が就任され
県内の諸企業や日本の乗物メーカーと連綿たる提携により
世界有数の自然公園「尾瀬」を

名実ともに「世界一の自然公園」

として維持発展したいと願います

提案のひとつは

現在尾瀬観光事業にかかわる民間各社をコンソシアームとして
尾瀬観光鉄道の運営に参画していただき
車両や人員・運行計画や輸送計画などをブラッシュアップして
尾瀬の来訪者数を
「自然公園の環境が維持できるレベル内」で増やして

尾瀬ひいては群馬県の魅力を世界へ発信することです。


民間バス会社などのコンソシアームの組成は熊本県など筆頭に類例も多く
高速バス便などの運用同様の
「自社機材による共同運行方式」
が望ましいと考えます。

尾瀬周辺のバス各社は当然ながら現有の機材を有し
その職員を抱えております

「コンソシアームの美名のもと」

すぐさまの統合運用には企業文化の違いにより
不必要な軋轢を生む危険をはらみます。

合併企業の失敗は「大が小の文化を飲み込む」
ことに起因します

ゆるやかな連合体は20年でも30年でも時間をかけて
最初は
「バス便の協調運行と需給数の変動に柔軟に対応するため」

尾瀬観光アプリを活用した
「時刻表のない緩やかな時刻予定表を開示するオンデマンド方式のバス便」
を想定します

一日の最低便数は「通勤・通学・通院」
の実需確保のため必要ですが

観光利用者については
ある程度の集客が可能になった時点で運行を実行する
オンデマンド式が適切と考察いたします

公共交通機関において通常は
「同一区間・同一運賃」が原則です

ただし

「日帰りで是非とも尾瀬へ来訪したい」


と願うお客さまが
「多少増額負担しても1時間待って他の旅客が来るまで待機」
するより少数客でも運行して欲しいと願う場合も想定できます

「時間の価値は人間によってまちまち」だからです
ただし通学や通勤の旅客には定時運行が必須です

それゆえ「同じバス便に通学の高校生と観光客」
が同乗するのが公共交通機関です

同一区間・同一運賃の原則は
「回数券・定期券・往復券」
などの運用まで否定するものではありません

定期利用する住民が観光客と別額の運賃を払うことに
倫理的な問題がないことは
公共性からも十分に反証可能です

タクシーなどを利用すれば観光利用者は
更に高額の費用を負担することになります

また入域観光客を資格のない「白タク業者」が
一般車立ち入り禁止区間へ勝手に乗入れトラブルを
起こす現況を回避できる利点もあります

なによりも便数の増加とオンデマンド化による
柔軟性の付与は過疎地域における交通機関の再構築という面で
社会実験的な意味合いのある手法です

その成否により恩恵を被るのは観光利用者だけでなく
地域住民でもあり
地域の活性化がもたらす利便性の付与は
地域振興や地方経済活性化という側面で有用であると判断します。

提案の二つ目は

当初は現有機材のやりくりとアプリ等のソフト面で
鉄道会社を構築するにせよ

将来的には運用車両をより環境配慮が可能なモノへ遷移させ
世界的な「環境先進性」と「安全運行」を両立する
公共交通機関の確立にあります

その可能性を十分に果たせるポテンシャルを
日本の輸送機器各社は持っております

ただし「ニーズがなければ新型車両は誕生しない」

そこで尾瀬に

「鉄道路線も走行可能な中型バス程度のDMVを投入する」

その構想です。

日本全国には多くの鉄道路線が敷設され
その定時制や安全性は国民全体の財産でもあります

しかしながら人口の減少は

「地方の鉄道やバスの維持を困難にさせています」

運賃収入をベースとする公共交通機関運営はすでに
日本では限界を超えております。

「道路は無制限にアクセス可能な公共財だが鉄道は利用者が限られた交通であり受益者の費用支弁によって運行すべき」

そんな財務省の姿勢は残念ながら理論矛盾を露呈させすでに破綻しています

すなわち東海道新幹線は民間企業体が運行していますが

「その運行が1日2日止まっただけで社会問題を引き起こす」

からです

民間企業が運行する鉄道でありがら
その停止は経済や様々な国民の機会を奪う行為となるのです

需要が多い鉄道だから公共性があり
不定期な鉄道の休止は糾弾されるのに

需要が少ない地域で鉄道を廃止することに
公共性があると強弁するのは倫理破綻であり

たとえ一人でも
50万人であっても

「公共性」に差があるなら
国土の均衡ある発達など望むべくもありません

それは

「国民はすべて都市部へ居住すべきで不便な地域へ住むのは個人の勝手であるから税金は投入しない」

そう言っているのとまったく同じです

地方の鉄道やバス路線を切り捨てる行為は

「はっきりと明言はしないが結果は同じ」

結論を招きます

ソフトの改善で得られた知見で開発された車両が
「世界各地で売れる」と判断すれば
車両メーカーは

「尾瀬専用のDMVには協力できない」とはいえません

商機を狙うのは世界中の企業であり
勝算があるなら十分に協力するのは当然です

ましてや鉄道は公共財です
自動車会社は

「社会的意義のある車両開発を拒んだ」

その報道だけで株価があっという間に急落する
社会的な注目度の高い企業です

国や県がその公共性を担保し積極的に関与する
「財政面での協力も行う」となれば
多くの車両メーカーは雪崩をうって
車両開発に参画するはずです

それが世界有数のマーケティング能力で
「売れるクルマ」をヒットさせてきた
日本のメーカーです

財政支出規模は実際にはさほどの金額にはなりません。
なぜならば
現在までに完成している応用技術で

「尾瀬投入用の新型DMV」は

十分に実現可能な技術が日本の車両メーカーにはあります

問題は商品が売れる場所です。

小生はそのために日本各地に存在する
「鉄道のきれはし」をめぐって調査しました

それは草津温泉も同様です

温泉地で言えば嬉野や登別・洞爺・伊香保・・・
日本中に鉄道だけでは到達できない有名温泉地が
たくさん存在します

DMVが活躍可能な・・・
途中まで便数の少ない鉄道があり
末端まで線路がない・・・
そんな地域は日本中いえ世界中に存在します

DMVの利便性は乗り換え不要な車両が
鉄道で乗客を集め線路の無い区間へ運行できることです

バリアフリー化が進展している鉄道駅で乗車可能な旅客が
乗り換えなしに目的地を目指せることは
鉄道とバスの利便性を両方持ったDMVのお家芸です。


尾瀬には冬季間需要が存在しませんが
「寒い冬には温泉に入りたくなる」日本人の国民性を理解すれば
尾瀬専用の車両が冬季は草津へ運行しても良いわけです。


財務省の姿勢を逆手にとった
「無限利用が可能な道路こそが鉄道経営を安定させる」
逆転の発想を生むのです。

以上が尾瀬へ観光鉄道会社という小生の提案です。

現実には荒唐無稽な提案で具体性に乏しいという反論も想定されます

しかし科学の振興は

「実験の成果によってもたらされる」

そしてAIの進化により

「その実験が安価で実施可能になりつつあります」

はじめる前から「無理だと諦めたら」

東京湾アクアラインの活況は望むべくもないのです

浜田幸一氏のブルドーザーのような実行力によって
夢の橋と海底トンネルが地域経済へもたらした恩恵は

「本来過疎地であった内房地域」

へ人口増と驚異的な集客力によって
現実のものとなりました

アクアラインを認めた大蔵省には先見性があり
財務省にその能力がないとは思えません

彼らは「責任をとりたくない官僚です」
責任は国民の代表がとれば良いのです。

「だれが木更津のド田舎へ観光に行くのか」

そうやって反対した議員や官僚は現実から目を背けず
非を認めるべきです

「実現できる可能性には挑戦する」
そのバイタリティーによって
戦後の復興を果たした世代の英知に学ぶべきです

社会政策に失敗はつきものです
しかし失敗はすべて無駄になるのではありません

科学は失敗の積み重ねによって進化するのです
社会科学は人為です

尾瀬の環境は自然の造営力による作品ですが
社会科学の分野で

「自然公園によっていかに人類は環境の必要性を学び進化したのか?」

その問こそが

尾瀬へ

多くの庶民が来訪して
その風を感じ
風景に隠れた自然の営力を実感し

環境によって人間は変化するという視点で学んでほしいと望みます

ながながと持論を展開して申し訳ございませんが
群馬県のためにひいては日本国のために
この提案をご考察願えれば幸いです


日々の公務に満身創痍の事でしょうが
県民のため日本人のため
以後も変わらぬ指導力を発揮されますことを
微力ながら祈念いたします         敬具


令和5年12月吉日

                     作者

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