桜賀シンヤ

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最近の記事

光る課題

カレンダーには「8/31」。壁にかかった時計は七時十五分を指していた。机の上にはワーク シートや冊子が散らばっている。 遠山、課題中。 白波、スマホをいじっている。 黒崎、雑誌を読んでいる。 遠山「終わらねー! どうすりゃいいんだよ、この量」 白波「もう諦めたら?」 遠山「そしたら、あの先公にたっぷり絞られるじゃねぇか」 白波、ため息を吐く。 黒崎、読んでいる雑誌から目を離さずに話しかける。 黒崎「これまで何してたの?」 遠山「親戚がやってる海の家でバイト。そこで出来た

    • 社会科準備室にて

      市川と遠山、両者向かい合い形で座っている。背景には九月一日と書かれたカレンダー。 市川、口を開く。 二人とも丸椅子に座っている。市川は短髪黒髪、目が死んでる。遠山はソフトモヒカンでピアス。目を合わせて、しっかり話を聞く感じ。 市川「で、バイク事故に合って宿題が全部燃えたと」(眉間にしわを寄せる) 遠山「ああ。もう大変だったんだよ、市川」 市川「先生をつけなさい」 遠山「……先生。あっちの標識無視のせいで腕は折れて、入院費でバイト代が飛んで、もう散々」 市川「そう、それは災難

      • 記録:3

         カーテンの隙間から、陽射しが漏れる。白亜の壁で反射した光が、ベッドで横たわる男の顔を照らす。死人のように安らかな寝顔に、思わず手をかざしたくなった。 「起きてよ……」  気付かずに言葉が漏れていた。男の名は藁谷将大、私の兄だ。  兄さんは一か月半前に、ステージの上でパフォーマンス中に倒れた。ようやくたどり着けた夢の舞台。そこに兄さんは一分も立てなかった。その無念は、どれほどなのだろうか。いや、そもそも無念を感じることができるのだろうか、今の兄さんに。  目を覚ました兄さんは

        • キャンバスもしくは相互偏執

           これは五月雨の日の事。ある高校の片隅で、彼女は筆を執っていた。キャンバスに描かれた鳥は白く、青空の中をどこまでも飛んでいけそうだった。さて、少しずつ筆が乗ってきたなと思っていると、教室のドアが開く。そこには、一人の男子生徒が立っていた。 「もう描いてるのか。早いな」 「今週は掃除当番無いんです、先輩」 「そうか。羨ましい限りだ」  彼は返事をすると、カバンの中から紙袋を取り出した。 「今日は紫陽堂の柏餅。旬は過ぎたけど、食うか?」 「……餌付けですか?」 「残念。今ならお団

          「キャンバスの裏側」もしくは「相互偏執の原風景」【一輪劇場裏話】

           俺の親父は画家だ。一日の大半を絵の具とキャンバスに向き合って終わる。俺はそんな親父があまり好きではない。というか、むしろ嫌いの域に達している。絵に魂を込めるあまり、父親としてのあの男はもぬけの殻なのではないか。そう考えては、無性に腹が立った。  そのことを母に話すと、「あの人はあれでいいの」と穏やかな顔で言われた。どうして、あの男に振り回されている母があんなことを言えるのだろうか。母に苛立ちはないのか。ぐるぐる考えて、また腹が立った。  俺はあいつとは違う。将来は親父以上の

          「キャンバスの裏側」もしくは「相互偏執の原風景」【一輪劇場裏話】