社会科準備室にて

市川と遠山、両者向かい合い形で座っている。背景には九月一日と書かれたカレンダー。
市川、口を開く。
二人とも丸椅子に座っている。市川は短髪黒髪、目が死んでる。遠山はソフトモヒカンでピアス。目を合わせて、しっかり話を聞く感じ。

市川「で、バイク事故に合って宿題が全部燃えたと」(眉間にしわを寄せる)
遠山「ああ。もう大変だったんだよ、市川」
市川「先生をつけなさい」
遠山「……先生。あっちの標識無視のせいで腕は折れて、入院費でバイト代が飛んで、もう散々」
市川「そう、それは災難だったわね。ところで、夏休み中に怪我をしたにしては治るのが早いんじゃない」
遠山「んなの、ウチがすぐに怪我が治る体質だからに決まってるだろうが」
市川「そうか。そうね。確かにあんたはこれまでの高校生活で、骨折五回、食中毒八回、高所からの落下十三回、計二十六回休んできたけど、毎回その次の日にはピンピンして学校に来てたものね」(目を閉じる)
遠山「よく覚えてるな。引くわー」
市川「私も軽率にそんなこと言いたいわ。で、そんなバイク事故で大変だったあんたに聞きたいことがあるんだけれど」
遠山「何だ? 学校からの秘密の抜け道?」
市川「教室棟二階から飛び出して部室棟の裏を通って山道に出るルートについては、もう聞きたいことはないわ」
遠山「ッち。やっぱ知ってやがったのかよ。新しい道探さなきゃな」
市川「その前に私の質問に答えなさい。昨日、警察に学校近くの河川敷で宿題を手持ち花火で燃やす不審者の通報があったの」(無表情で淡々と)
遠山「贅沢な不審者もいるもんだな」
市川「これ、あんたでしょ」
遠山「まさか。バイクの修理費全額賭けていいぜ」
市川「その言葉、忘れるないでね。良い、よく聞きなさい。通報によると、不審者は身長が高く目つきが悪くて」
遠山「それ、先生もでしょ」
市川「で、緑色のソフトモヒカン頭」
遠山「ああ、そりゃ先生じゃねえな。残念」
市川「で、燃えカスの中から遠山涼子の文字が発見された」
遠山「……全部嘘だから、バイクの修理費なんて存在しねえよ」
市川「もう少しまともなセリフは無いの」
遠山「んだよ、とっとと警察とか校長に突き出せよ」
市川「実は私も嘘を吐いてたの。本当は通報なんてなかったのよ」
遠山「じゃあ、なんであんたが宿題のこと知ってんだよ」
市川「だって、私が住んでるところ、あそこの目と鼻の先だから」
遠山「は?」
市川「もう少し調べてからやるんだったわね。ほら、替えの宿題を床に置いておいたわよ」
遠山「雑じゃない⁉ もう少し手厚く扱ってよ」
市川「河原で課題も燃やす奴に加える手心なんか無いわよ。期限は一週間、絶対に守りなさい」
遠山「短っ! なぁ、少し長くしてくれよ。次の夏休みまでとかさ」
市川「しないわよ。今度こそ燃やすんじゃないわよ」
遠山「わーったよ。……今度はボトルレターだな」


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