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検証「日銀の保有国債の含み損が過去最高の10.5兆円に達して大変だ。。。」は、本当か

それでは、日銀が保有する国債の含み損について、考察を試みてみましょう。

ア) 統合政府バランスシートでの検討


まずは、日本銀行を政府の連結財務諸表の連結対象に含める、「統合政府バランスシート」の立場を前提に考えてみましょう。

https://www.boj.or.jp/about/account/data/zai2311a.pdf

この立場に立つと、政府の子会社である日銀が保有する国債は、親会社である政府との連結の過程で、資産と負債から相殺処理されて消えてしまいます。

そこで、そもそも連結財務諸表からは勘定科目自体が消え去っているので、問題にしようがない。

この点について、以前説明させていただいたので、興味があればそちらをご覧いただきたい。

したがって、全く問題なし。以上。

そんな・・・と言われても、この方法によれば、そうなってしまうので致し方ない。

ただ、これだけでは何とも味気ない。

そこで、仮に政府のBSの連結対象に日銀を加えない財務省の立場も考慮しつつ、日銀のBS単体でも考察してみましょう。これで考えて問題が残れば、それは統合政府BSの考え方に欠陥があることを疑った方がよい、ということになるでしょう。逆に、そこでも問題が残らなければ、統合政府BSの考え方に誤りがない、ということを補強することになるか、と思います。

イ)統合政府BSの考え方を検証する意味での日銀保有国債の含み損の考察


結論から申し上げると、これでも問題にはならない、ということになります。以下少し考えてみましょう。

会社役員、会計担当者、個人事業主、金庫番、簿記をやっている方々であれば、一般のバランスシートの資産や負債を考えるにあたって、それが誰にとっての「資産」で、誰にとっての「負債」か、ということを考えるのが大事、ということは基本であり、多少かじった私のような方でも、どこかで聞いたことがあると思います。

そういう視点で、日銀が保有する「国債」をもう一度考えてみましょう。

日銀が保有する国債は日銀にとっては「資産」です。この国債を「負債」として抱えているのは誰でしょう。

・・・

そうです、日本政府です。

この点を踏まえて、もう一度日銀が保有する国債について考えてみましょう。金利が上がったことによって、確かに日銀にとっては「評価損」を抱えることになります。しかし政府にとっては、これは負債である国債の「評価益」が増加した、ということになります。

双方が連動して同額の評価損、評価益が動いて一致するからこそ、単純に相殺処理もできる、統合政府の立場から見ればそういう風にも言えるかと思います。

日銀を政府BSの連結対象に含めない政府財務省の立場に立つとしても、日銀の発行済み株式総数の過半以上を保有し、総裁はじめ役員が国会の議決で選任される会社。後で高橋洋一氏が述べるように、「親会社と子会社であるかのような一体」関係にあることは確かです。

利益は国以外の株主への配当や準備金を除いて全額政府の国庫に上納されるという、仮に一般企業の子会社に例えると日銀にとっては救いがないブラックルールです。つまり、国債の利息として一旦政府が日銀に支払った利息も、国庫に戻ってくるわけです。おそらくですが実際には現金の授受はなく、帳簿上の書き換えだけで処理しているのではないでしょうか。また、政府の指示、委託を受けた国債発行業務なども財務省と連携してやってます。

上記のような次第で、財務省の考えに従っても、問題なし。

統合政府バランスシートに立つ立場であっても、相殺処理する以前に、上記の思考は辿るはずです。そのうえで、相殺処理する。

識者の意見を借りて、念のためもう少し掘り下げましょう。

この点、高橋洋一氏(元財務官僚,経済学者)による説明が個人的にわかりやすかったです。そこで少し長くなりますが、自分自身の学習の意味でも、氏の説明をそのまま引用してみます。
(引用元:『99%の日本人がわかっていない 新・国債の真実』高橋洋一著,あさ出版 P106~P108)

「・・・『政府の借金が増えているから問題』という偏った批判がある一方で、『日銀が大損するから問題』という偏った批判もある。・・・これも見当違いな批判であることを、ここで説明しておこう。・・・

まず『日銀が大損する』というのは、次のようなことだ。

日銀が、民間機関から、高値で大量に国債を買っているが、景気がよくなれば国債価格は下落する。そこで金融緩和策から金融引き締め策へと転じれば、日銀は逆ザヤとなって巨額の損失が出てしまう。要するに、日銀が高値で買った国債は、いずれ価格が下落するであろうから、大きな評価損が生じる(下がった差額分、損をする)、と言いたいわけだ。・・・

じつは20年ほど前から、こうした議論はあった。

元アメリカ財務長官のローレンス・サマーズ氏や、FRB前議長のベン・バーナンキ氏が来日したときにも、日銀関係者などから『日銀の評価損は問題ではないか?』という質問が出ている。・・・」

正に、動画で河村小百合氏が丁寧に説明しようとしていることではないでしょうか。河村氏は日銀出身。ひょっとしたら、河村氏からのご質問だったかもしれません。

高橋氏の説明の引用を続けましょう。

「・・・それに対するサマーズ氏の答えは一言、『だから何?』だった。・・・もう少し親切に説明するなら、バーナンキ氏の『日銀資産の評価損は政府府債の評価益だから問題ない。もし気にするなら、政府と日銀の間で損失補填契約を、結べばいい』という答えがわかりやすい。

この二人に共通しているのも、『統合政府バランスシート』で財政を見ている、という点だ。

日銀と政府は、子会社と親会社であるかのように一体である。そして資産と負債は背中合わせである。したがって、日銀の『資産』である国債の『評価損』は、政府の『負債』となるため、である国債の『評価益』となるため、政府と日銀のバランスシートを合算すれば問題ない。・・・」。

この点を踏まえて、河村百合子氏の説明動画をもう一度ご覧いただき、皆さんご自身で考えていただければ、と思います。

一つ申し添えるならば、仮にイングランド銀行が統合政府の考えを前提にしているならば、含み損を抱えた国債の売却に何らの躊躇も感じなかったであろうということ。

河村氏が動画内で力説するイングランド銀行の事例は幻想なのではないでしょうか。この点は裏どりの文献を見つけられていない、私個人の推察です。


ウ)テレ東の動画説明について


私の所感として感じたところは、
①     よかった点
・まず、こういう一般にはとっつきにくい問題を、河村氏のような有識者を招いて動画なりで分かりやすく解説しようとする試み、これは間違いなく良いことでしょう。こういう試みを増やしてほしい。
・また、説明するに際して河村氏は日銀の半期バランスシートを示している点、これはとても良いと思いました。ぜひ、テレ東はじめ主要メディアにおかれては、政府の財政危機の説明の際も、こういった姿勢で報道していただきたい。

②     改善が望まれる点
・「統合政府バランスシート」を踏まえた説明が施されていない、という点は、良くないと思います。

この点は、仮に、テレ東としてこの考えを採用しないにしても、
「意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること。」
という放送法4条1項4号の精神
に鑑みれば、この点についても、キャスターが河村氏に質問する、または高橋氏などの識者の意見も別途インタビューして加えるなどして、そういう意見があることを示して、それを踏まえた解説を依頼する、等を行うように思えますが、いかがでしょうか。「統合政府BS」の採否で結論が異なってしまう可能性がある以上、問題の所在を示し、両論を示す。そうすれば、河村氏が「統合政府BS」についてどのようにお考えか、も盛り込まれて仮説に深みが増したと思えます。

テレ東や河村氏が、自説をメディアや動画などて展開して解説をする、これは当然のことで、自由です。

ただ、繰り返しますが、違う結論を招来することになる別の見解が存在するのであれば、最低でもその存在を紹介した上で、テレ東や河村氏がその見解を採用しない理由を説明し、その上で最終的には視聴者に判断を委ねる。これが、健全な報道のあり方でしょう。

にもかかわらず異なる意見に一切言及しないまま、自説のみを展開し、さらに「・・・間違いない」といった断定話法を連発する。ほかの意見を知らなかった、とすればテレ東の取材編集能力や、金融政策のテクノクラートとしての河村氏の力量の問題だと思いますし、知っていてあえてスルーしたとすれば、残るところはテレ東責任者と河村氏の人格問題でしょう。「高橋洋一氏や上念司氏といった取るに足らない連中の意見など言及不要」といった心情なのでしょうか。私にはよくわかりませんが。。。

河村氏が勤めている日本総研は、この方の上席を通じて厳しい叱責を加えるべきなのではないでしょうか。

こういった類いの軽率さは日銀入行前の、学部を問わず、大学の入門ゼミなどで、指導教官から一番やってはいけないこと、として最初の授業で叩き込まれ、以後繰り返し指摘、指導されることだとおもいますが。。。

日本総研といい、前職の日銀といい、出身校の京都大学法学部といい、いったい河村氏にどういう教育をしてきたのでしょう。唖然とするばかりです。

参考 放送法4条


・もう一点、日銀のBSを見れば、国債とは別に、資産の部の「金銭の信託(信託財産指数連動型 上場投資信託)」勘定科目は、37.1兆円。これは昨年同時期から7.5兆円増え、23.6兆円「評価益」を出しているようです。
この点、日本経済新聞は記事の末尾ではありますが、きちんと言及しています。(下記日経記事参照)。

そしてそれらも含めて、純資産は昨年9月末の4.4兆円から約1兆円増え、約5.5兆円となってます。
この点は、BSを見る際には、個別の勘定科目だけを見るのではなく、BSを全体を俯瞰してみる、過去同時期のそれと比較しつつ見るという、会計的な基礎ともいえる姿勢が甚だ薄いように思えます。

加えて、

政府の累積債務残高が増えて大変だwwと心配してやまないテレ東始め主要メディアの方々、

ここまで述べてきたように、日銀の国債含み損が拡大に伴って、実は同時に政府の赤字国債の評価益が増えてたわけです。まことに喜ばしい。今回の動画と合わせて、河村氏とキャスターさん他関係者全員で、ええじゃないか音頭でも踊って動画にアップしていただければと思いますが、どうですか?

重苦しいニュースで始まってしまった歳初めの世相にささやかな笑いに繋がり、みんなが少しでも元気を取り戻すきっかけとなって楽しくていいかな〜と思いましたが、いかがでしょう?

おちょくっている?不謹慎??違います。

怒ってるんです。前に述べたシングルマザー家庭での窮乏、年が明けては被災や事故で苦しんでいる方々のことに、知るかそんなもんとでも言わんばかりの、だらだらとしたいい加減なふざけた偏向報道、動画の垂れ流しを前に、激おこです。

彼らと高橋洋一氏、上念司氏との相違は、以前の記事でも述べた通り、①日銀が日本唯一の通貨発行機関であること、それをふまえて②政府との関係で日銀が保有する資産や負債の特殊性をどう考慮するか、だと思います。

彼らは統合政府の考えをとらず、日銀の特殊性も考慮しないで、日銀を一般の民間企業と同じように考える立場を前提にしているのでしょう。そこは見解の相違ですから主張は自由です。しかし、小賢しく手を抜いた説明で視聴者を自説に導くな、馬鹿っ、、、という話です。

動画と本記事をあわせ読んだ方々、特に若い方々はショックを受けるかもしれません。正常な感覚だと思います。こんなのが財務省の財政制度等審議会で委員に名を連ねてたりします。これが我が国の亡国の現状です。「嵐で何も見えやしねぇ」とはこのことか、と。

でも大丈夫です。これからが大事。

エ)補足
 債権額と金利が反比例する、という相関関係については、下記動画がわかりやすかったので、ご興味があればご覧になってみてください。


エ)次回の課題


この動画で現れたテレ東の報道姿勢はかなりの稚拙さと偏りを含んだものであり、問題は根深いことはご理解いただけたと思います。

また、相変わらず今の日銀の金和緩和から引き締めへの政策転換を「正常化」などと表現する、地味で稚拙な印象操作の試みも絶賛継続中。「出口」と表現するのが適切だと思うのですが。一刻も早い「正常化」が求められているのは日銀の金融政策ではなく、君たち主要メディアや御用学者による偏向報道の姿勢それ自体でしょう、と申し上げたい。

こういうのも積み重なればボディブローのように効いてくるものかも・・・。金融緩和も引き締めも手段であって目的ではない、状況に応じてとるべき手段は当然異なってくる、ということは、以前に申し上げた通りです。

私たち国民、視聴者を見下げて、バカにしている証拠。ふざけすぎです。

以前の記事でも少し言及致しましたが、今回の各メディアの対応も踏まえ、私は日本の主要メディアの報道姿勢について大きな課題=改善余地があると感じています。そこで、その中でも「記者クラブ」の問題について考察し、参考文献の紹介とともに皆さんにお届けしてみようと思います。

決して、メディアの報道のすべての質が悪い、というわけではないと思います。

ある方は日本経済新聞の文芸欄は素晴らしい、とおっしゃいます。私も、例えば、朝日新聞のスポーツ欄では学生スポーツについて当事者への長期取材を交えたかなり読み応えのあるシリーズ企画を行っていたり、これぞプロと称賛したくなる記事がたくさんあると思います。

そんな素晴らしい技量を持つメディア、編集デスク、記者の皆さんが、なぜ政治・経済問題担当になると魔法がかかったように途端に「横並びの馬鹿」状態に堕してしまうのか。。。この「記者クラブ」の存在が深くかかわっていると思います。

「朝日」と「産経」のどっちが・・・という話ではありません。他の主要5大紙含め、どっちもです。

政府、日銀のBS周りの問題については、報道を観察しつつ都度、必要に応じて自分の勉強の共有として、今回のような記事に都度まとめて、参考文献の紹介とともにお届けしたいと思います。

末筆ながら、本年もよろしくお願いいたします。


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