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二世帯住宅が完成しない #3 マウント

あれ…なんかまずいこと言った?しばしの沈黙があり、私は思わず脇汗をちびった。 脳内で今起きたことの再現Vを流す。なんかまずかったか…?

数日前。母からこんなことを言われた。「兄嫁ちゃんが、離乳食で悩んでいるみたい。お母さんはもう覚えてないから、アドバイスしてあげて!」

兄と私は、お互い近い月齢の子がいる。このとき私の娘は生後8か月、兄の娘(姪)も生後7か月だった。

私も1人目の子育て中で、戸惑うことも多く、アドバイスなんてとんでもない。「なんも言えることないよ(笑)」と母に返事していた。

そしてこの日、兄家族と集まる機会があり、娘と姪をマットの上で遊ばせていた。兄嫁との話題が、離乳食になった。「せっかく作った離乳食を食べてくれないと、がっかりするよね~」「そうだね」たわいのない話をしていた。兄嫁は私の年下だが、年が近いのでお互いタメ語。

「そういえば、果物を生であげようとすると、食べなかったけど、レンチンすると食べたよ!柔らかくなって甘味が増すからかな~」少し母の話を思い出し、何気なく話した。アドバイスってほどではないが。

「へーそうなんだ」「うちもそれやる~」といった返答を待った。

兄嫁の返答は、沈黙だった。時が止まったかと思った。
…ん?早口で聞き取りにくかった?

「離乳食本を読むとさ『1食〇gを目安』とか書いてるけど、面倒で測らなくなっちゃった。どうせ残したりするしw 神経質に作るのやめたw」今度は自虐っぽく、ゆっくり話す。

またまた沈黙だった。スーパーでよそ見しながら話していたら、夫が遠くにいて恥ずかしかった時と同じ感覚。いや、ちょっと違うか。

兄嫁を見ると、能面のような真顔だった。それで(あれ、なんかまずいこと言った?)と思った次第である。話題を変えると、その後は何事もなかったように兄嫁は談笑し、解散した。

ふと、兄嫁の能面タイムのことを思い出す。私はよく飲み会終わりに自分の失言を振り返り、うわあああああ!と布団の中で、自己嫌悪に苛まれることがある。コロナのせいでご無沙汰だったけど。

もう一度、再現Vを見る。ちょっと上から目線で話しているように思われたのかな?「先輩ママ気取りかよ」みたいな。でも義母(私の母)に「離乳食悩んでる」って相談してたんでしょ…。兄嫁が母に相談するシーンを想像する。

ハッとする。コナンが閃いた時のように、私の漆黒の背景に一筋の光が走る。兄嫁は、離乳食に悩んでいたわけではなかったのだ。義母に子育てのアドバイスを乞うことで、義母を担ごうとしただけなのでは…。

「お義母さん、私ってば離乳食に悩んでて~」と相談を装うことで、母が「えーっと…こんな工夫したかしら?」とでも言えば、「わぁ☆参考になりますぅ!」「あら、そう?(へへっ)」みたいなクダリで、可愛い嫁を演じようとしたのでは…。

天才かよ。私も義母(夫の母)にやってみよう。

ただ、兄嫁の作戦は、母の「いや、覚えてへんわ」で一蹴された。チッと舌打ちしていたら、なんや数日後に義妹が求めてもないアドバイス(?)をしてきて、思わず能面っちゅうわけか。

私の中の服部平次はこう推理した。

子どもを生んでわかったことがある。自分のことはいくらでも自虐や謙遜ができても、わが子をけなすことには抵抗がある。

「うちの子バカだから~」という親御さんもいるが、少なくとも乳児の間はそんなこと言えない。だって「可愛い」が「無垢」でコーティングされているから。そして自分の子育てにも一番力が入る時期で、育て方にプライドを持っている人は多い。

子育て広場などで赤子を遊ばせていると、見ず知らずのママさんと世間話をすることがある。このとき、細心の注意が必要だ。

例えば「うち夜泣きがひどくて~。そちらはどうですか?」という質問に「うちは全くないですよ」と正直に答えてしまうと、マウントされたと思われる恐れがある。

本人に自覚がなくても、つい発した事実が「それはうちの子が、劣っているということ?」「私のやり方がまずいと言いたいの?」と受け取られて、疑心暗鬼に陥らせてしまう。

私はこの誰も悪くないボタンの掛け違えを「マウントラップ」と呼んでいる。ちなみに、この例の正解回答は、「うちは今は夜泣きマシですけど、以前は大変でした。」と共感を添えるのがポイントだ。

私はこのマウントラップが恐ろしゅうて、支援センターなどにうかうか顔を出せない。(被害妄想)

そして、きっと兄嫁にもやっちまったんだ…マウントラップを。

兄嫁はきっと、自分の子育てに相当の信念がある。完母にこだわり、市販ベビーフードには一切手を付けないところから、推察される。わが子を思いやる良いママだと思う。

でも、こういう人はマウントラップに引っかかりやすい。そして、私のような、月齢の近い子がいて大雑把な人間とは、なるべく距離を置いた方がよい。

親戚の集まりで年に1,2回会うくらいがちょうどいいんだろうな。そんなことを思っていた。

そして現在。気が付けば、私は、兄嫁と同じ屋根の下で生活していた。

両親との二世帯住宅を建てたが、両親がしばらく住まないことになり、空いたスペースがもったいないのでと、兄家族が住むことになった。

引越直後のこと。私の娘はまだ「ママ」と「パパ」を区別できていなかった。娘が、夫のことを「ママ」と呼んで「違うよ~パパよ」と言っていた。1歳4か月なのでこんなもんだった。

両親が来た時、兄嫁は「うちの子、『パパ』がわかって言えるようになったんです!」と私に聞こえるように報告していた。

くぅ~マウントラップ!必死に理性を顔にまとい「えー!すごいね!うちの子まだだわ!」と姪をほめる。

早速、姪に「パパはど~こだ?!」と聞いてみると、ぽかんとする姪。「緊張してるのかな~『パパ』って言ってたじゃん!言ってごらん!」と兄嫁。ぽかんとし続ける姪。

これからの生活に不穏な空気を感じていた時、パパと呼ばれなかった人(兄)が私に声をかけてきた。
「ちょっと相談あんねんけど。」

ここまでお読みいただきありがとうございました!これは二世帯住宅を通じて、「家族」について考えるエッセイにするつもりです。スキをいただけたら、連載したいと思います。応援よろしくお願いします!

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