【読書感想文】“天才”を売る 心と市場をつかまえるマンガ編集者 【小池均】
イントロダクション
世界的に日本オリジナルのものが減る中で、豊かなイマジネーションを発揮して、世界中の人の心を動かしている分野がある。そう、マンガだ。漫画家について語る本はあるが、編集者の実像はあまり伝わっていない。編集者のリアルな肉声を伝える。本稿では特に心に残った小池均編集者の話を描く。
小池均 少年ジャンプ「アイシールド21」『火の丸相撲』「僕のヒーローアカデミア」
「作品のクオリティを上げることはできる。けど、作品を面白くすることは作家にしかできない」
これが週刊少年ジャンプ編集部小池さんの基本スタンスだ。漫画家は天才だという前提がある。文字を書ける人は多い。しかし絵を描ける人となると激減する。さらに文字と絵を使って物語を紡ぐ人となると”天才”の領域だ。
編集者にもいろいろいるが、小池氏の考え方は「作品を描くのはあなたで、これはあなたの作品。自分はそれにアドバイスするだけ」
こうしたスタンスもあってか、編集者を「ズルい」職業だと感じている。
例えば、ダメ出しでも次のように伝えるそうだ。
小池氏は漫画家と編集の関係を「ピッチャーとキャッチャー」に例える。例えば投げる側がベテランであり、とんでもない球をポンポン投げれる人ならキャッチャーは受け止めるだけでいい。「お前は俺が投げるところに構え解け」となるだろう。でも新人のピッチャーは良い球をもっていても、経験が浅いからリードも必要になる。ここでキャッチャーもへぼだと打たれてしまう。「そういう意味ではキャッチャーの責任もしっかりある。しかし、根本的に球が遅い人は、キャッチャーができることは非常に少ない」
小池氏が認める通り、横暴な話だ。ダメ出ししながら、それを超えてこいと要求する。仮に上司だったらクソ上司確定だ。ジャンプのブランドを考えると、編集者と対等以上の地位を築けてる漫画家は限られているから上司みたいな位置でもおかしくない。
それでも、トップクラスの漫画を作るにはおそらく大事なことだ。客観的な目線から出てきた理路整然としたアイデアも大事だが、それだけでは秀才の発想で、世界が小さい。多少の矛盾があっても作家ならではのこだわり、これを描きたいという意欲こそ読者の心を動かすはずだ。
ジャンプ流 編集者の育て方
ジャンプは日本最強の漫画雑誌。その方針は新人だろうといきなり編集者に作家を任せるというスタイルだそうだ。小池氏はまず、アイシールド21の担当になったが、最初の1回だけ前担当と作家と打ち合わせしてからは、自分と先生の1on1になったそうだ。
当然、非常に緊張して「使えないと判断されたらどうしよう」と不安になったそうだが結果、「そう思われないように頑張る」という唯一無二の解決策に強制的に追い込まれた。
もちろん、「新人編集部がどうにもならなかった時のセーフティーは編集部で用意している」とのことだったが、新人の時はそれに気づいてなかった。全て自分の責任という思考が、編集者の成長を促すのだろう。
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