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刑務所わず【読書感想】

シャバの皆さんこんにちは

刑務所の中はシャバでは味わえない、常識では考えられない体験の連続だ。ちょっとは気になる人もいるはず。そんな「塀の中」をホリエモンがスタッフに宛てた手紙からリアルタイムでメルマガ配信。文庫にあたって加筆・修正した。

獄中記はいろいろあるが、ほぼリアルタイムで伝えたという点でかなり珍しい。看守からも人気だったそうだ(笑)

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地獄の沙汰も"人"次第

刑務所でも金銭が必要になることは有名だが、堀江氏の場合は「人間関係」の方が刑務所サバイバルで重要だったという。刑務所は完全な体育会系タテ社会。刑務官や先輩受刑者との関係はかなり面倒であった。

例えば、ホリエモンが配属された「衛生係」のトップである「ガチマジ先輩」は、同氏が直接刑務官のところに行くと、「なんで俺を通さないんだよ」とものすごい剣幕で怒ってくるのだ。

ある日、工場でバタついていた時、技官から「堀江、材料の在庫ってどれくらいあるんだっけ?」と聞かれて「あと3~4箱ですよ」「じゃあ明日またもってくるね」という自然な流れで会話した。

しかし、ガチマジ先輩はこれでも許せず「堀江。なんで俺を通さないんだよ!」とキレるというのだ!

一方で、刑務官はと言うと「先輩の言うことに黙って従うのが当たり前だろ!二度と口論するな」と言う始末。一度仕事のやり方で口論になってしまい、それ以来目をつけられてしまったホリエモンとしては、ずっと彼らとうまくやっていくのが最大のミッションだった。

刑務所のルールでは新人が部屋の掃除を担当する。これが面倒で、なぜか刑務所の多くは洗面所の水ではなくトイレの中の水を使って掃除しなければならないというルールが蔓延っているのだ。この新旧はその部屋に入ってきた順なので、問題行動を起こして移送されると、新人扱いでリスタートとなる。他人が用を足した後のトイレの水を使って掃除するという苦役を再びやらねばならないのである。

別人なのだが、北尾トロさんの刑務所記事でも人間関係の重要性を強調している。刑務官と折り合いがつかないと独房に入れられたり、模範囚になれない=仮釈放が遠のくし、囚人と仲良くなる必要はないが嫌われると些細なことをチクられる。このように人間関係が生き残りを握っていると言っても過言ではないのだという。

②快適ライフを求めてー幸せの閾値が低すぎる囚人生活

受刑者の最大の楽しみは食事である。ホリエモンも毎月の献立表を心待ちにしていた。一番に目が行くのは祝日に配られる特食(つまり、おやつ)である。

特食は事前にはわからない。なので当日に、例えばシュークリーム1個だけだとメチャクチャ落ち込むし、クッキーひと箱だとメチャクチャ上がる!と言う感じ。逆に普段の飯は、素朴ながら作りたてで意外と美味しいそうだ。

特食情報は刑務所のなかでも貴重あるらしく、運動の時間でいち早く特食の情報を手に入れる炊場の人や、炊場の人と一緒に運動した経理の人から又聞くなどして手に入れるのだという。こうした情報で一喜一憂するのだとか。

ところでシモの話で恐縮だが、現在のホリエモンはデリケートゾーンも含めて全身脱毛している。そのきっかけが刑務所での生活だった。というのも刑務所でチンゲか腋毛かわからない縮れ毛を毎日のように数本発見し、いちいち捨てるという面倒な作業をしていたからだ。

自室の掃除もさることながら、衛生係はときどき汚部屋の掃除に駆り出される。そうした場所でジジイのあそこの毛を大量に処理すると萎えるものである。

また、これもシモの話なのだが性処理の問題がある。つまり自慰だ。肉体的には、男性は高齢でない限りは定期的に射精する必要がある。そうしないと一部の人は夢精してしまい、パンツを洗う羽目になる。

夢精すると衛生係に託す…のはやはり嫌なもので、刑務官に許可をもらって自室でパンツを洗う。当然生渇きになるので1日嫌な気分になる、と言うことになる。

というわけで皆布団の中で自慰をするのだが、刑務官もそれは見て見ぬふりなのだという。豆知識として、昔はルール上は自慰はダメだったのを黙認していたが、今はルール上も問題ない。ちなみに、エロ本の差し入れ自体はOKで、犯罪を想起させるもの(レイプ、痴漢、ロリ)でなければ普通に許可されるそうだ。

③仮釈放は狭き門 出所後に待ち受ける苦労

多くの囚人が満期前の、仮釈放を目指して模範的な行動をする。だが、仮釈放はそもそも身元引受人がいたり、定住する住所がないともらえない決まりとなっている。

天涯孤独、家族に見放されてるという人は満期釈放に甘んじるか、真面目に勤めて更生保護施設に入所できるようにしなければならない。しかし、後者は狭き門だ。更生保護施設は全国で約100箇所で、1施設に数10人程度しか収容できない。堀江氏の体感では、仮釈放は長野刑務所15工場で半分程度だという。

満期で施設に入所できないとなれば、入所中の僅かな作業報奨金で凌ぐしかなく、それは実質「再び刑務所に入れ」と言っているようなものである。

堀江氏が本書で「最後に一つだけ、真面目な話を聞いてほしい」と言った内容がある。
刑務所にいる人達の多くは普通の人。これが堀江氏の感想だ。

「1回刑務所に入った人の再犯率は5割を超えている」と刑務官から聞かされた時、すごく衝撃を受けたという。

「もちろん変な人もいたけど、ココロの中にトラウマを抱えていたり、家庭環境が良くなくて親にネグレクトされていたり、社会に対してルサンチマンを抱いている人。そうした人たちも少し打ち解ければ、どこにでもいる人だった」

これを裏返すと、シャバの普通の人たちも何がきっかけで刑務所に入るかは分からない。

「なるべくなら、偏見の目を持たないで、彼らの更生を支援してやってほしい。それだけで再犯を減らすことになり、絶対に世のためになる。逆に彼らを排除すればするほど、再犯というブーメランとなり新たな被害者を生んでしまう。だからまず、そういう人たちがいること、その存在を知ってもらうだけでいい。一気に更生施設を増やそうなんて大上段に構えなくていい」

これが刑務所に1年9ヶ月入って、たまたま介護についた同氏の〆の言葉であった。

本書の所感

私は刑務所の記録的な本は今まで2冊程度しか読んでないのだが、ここまで面白おかしい獄中記も珍しいと思う。

基本的には、自分が反省しているとか無実だとか、悲しい半生だとか、刑務所がいかに理不尽な場所であるとか、どんな本を読んだかとかを語っている。それはそれで面白いのだが、書いている内容がどうしても暗くなる。

一方で、ホリエモンの日記は自分の境遇を完全に受け入れており(仮釈放できないかとソワソワするけど)日々どんなことがあったか、こんな理不尽があったけど耐えるしかないよね~(笑)といった、前向きなトーンとなっている。刑務所での心情にガッツある人柄が出ていると思う。

ただし、ホリエモンは有名人かつメルマガ配信していたということで、良くも悪くも目をつけられていたはずだ。看守はあまりルールから逸脱せず、優しくも厳しくもできなかったのではないかと思う。例えば、「長野刑務所の冬が寒いし窓が空いている…これはいじめ!?」といった内容を書いたとき、翌年からは改善されたそうだ。

そう考えると、ホリエモンより良い獄中生活を送れる人は珍しいのだと思う。縦社会や介護といった世界から縁の遠いホリエモンにとっては、ある意味素晴らしい体験になったのではないか。出所後ちょっと丸くなった同氏をみてそう思うのだった。




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