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【読書感想】給料の上げ方―日本人みんなで豊かになる

イントロダクション
日本は物価も賃金も「安い国」になりつつある──。近年はニュースでこんな問題が取り沙汰されるようになった。実際に日本人の給料は過去30年間、ほとんど上がっていない。なぜか。

日本の給与は世界的に見てどれくらいの実力なのか。

OECD(経済協力開発機構)2021年の平均賃金調査では、日本の平均賃金は39,711ドルで、24位。これより低い先進国はスペインだけだ。


OECD「Average wage」:moca

購買力調整をした後の結果なので「アメリカは物価高いから生活は総合的にあまり変わらないよね」といった論法は通用しない。

厄介なのは、毎年の上昇率には大きな差がないこと日本と諸外国の差が付き始めたのは1990年代で、ドイツの給料は年1.1%に対して日本は0.2%。わずかな差が、30年後には1.38倍の差になった。

ただ、一つ統計のマジックには注意。日本は生産年齢人口の減少を補うために働く女性や高齢者、学生がアルバイトなどで働くようになり、就業者の数を押し上げ、平均賃金を下げた。

だが、税金や社会保障費の割合である「国民負担率」は2003年以降ずっと上がっており、手取り収入は激減している。1990年と比べると手取りは9.1%減った。結局、他国は置いておいても、我々の給料は低いのだ。

給料が低いのは日本人の能力の問題?

筆写は違うと断じる。仮に能力の問題だとすると、1990年代に入ってから突然、諸外国の能力だけが劇的に上がったことになるからだ。

経済学的には、給料の低さは日本人の能力の不足ではなく、1人の労働者が創出する付加価値である「労働生産性」が低いから。世界銀行のデータによれば日本は世界で36位。

「日本の給料が上がらないのは労働生産性が上がってないから。これ以上の説明は一切必要ない」と筆者は断じる。ではなぜ労働生産性が低いかというと、本書では詳述していなかったが暗に中小企業の多さなどを指摘している。

政府は給料を上げられない

筆写は東洋経済をはじめとするメディアでさまざまな記事を書き、安倍政権と菅政権で政策を提言した経験も踏まえて「日本は政府が民間企業を動かす力はかなり弱い」と指摘する。

日本政府はマクロ政策をしっかり実行している。ゼロ金利政策、法人税率と所得税率の引き下げ。しかし、効果が出てないのだ。

もしかしたら他国も政府の力は弱いのかもしれないが、いずれにせよ「経済に関しては政府に期待できないし、すべきではない」と指摘する。

我々はどうやって給料を上げればいいのか

筆写はまず、給料アップの目標として「年4.2%」を提案している。これは日本人の定期昇給の平均額2.8%に加えて、1.4%は人口減少に突入した日本が成長するために必要な数字だ。

給与を上げる選択肢は「海外移住」「給料交渉」「転職」「起業」の4点。だが、私にとって現実的なのは「給料交渉」「転職」の2つだ。

まず、自分が勤めている企業が給料アップに応じる可能性があるかどうかを判断する。給料アップに応じる企業には「新事業を開拓している」「単価を上げようとしている」「新技術の導入などイノベーションに挑戦している」「新しい需要を発掘している」などの特徴がある。これでダメそうなら転職になるだろう。ただし、転職しても給与交渉は避けられない。

給与交渉は現在労働人口が減少しているため、好機ではある。しかし、玉砕覚悟で賃上げ要求しても、効率が悪い上に経営者から逆恨みされかねない。給与を上げるには今までより高度な商品を提供するための努力をする必要がある。これこそが給与交渉の心得だ。

本書の所感

タイトルは給料の上げ方だが、内容はハウツーではなく、マクロ的な視点での分析。著者があえてこのタイトルを付けた背景は、個々人が自力で努力をして、自分の給料を上げるという当事者意識を持て──というメッセージだと思う。

全体的にページ数が足りてないのか、もう少し論じてほしい部分もあったが、概ね理路整然と事例を交えながら日本の課題を浮き彫りにした分析力・プレゼン能力が素晴らしい。よくある「誤解」にも配慮しているところに、仕事できるんだろうな感。

明日からの人生に役立つ本ではないが、5年後10年後には役立つかも。何はともあれ、読み応えのある本だった。


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