ある男の魂の彷徨(伊勢正三とともに)その4 「時の流れ」

彼女を見送った後、一人で部屋に戻った男。当たり前だが、彼女を見送るために出ていった時のままであり、まるで時間が止まったかのようである。

男の目に映ったのは、窓辺においてある砂時計。それは去年に彼女と旅行したときに買ったもの。男は手を伸ばして砂時計を返してみた。砂が下へ落ち始める。男はそれを見て安心した。時間が確実に流れている事を確認できたから。

馬鹿げたことであるが、今の男には、こういう物理的な事でしか時間の流れを感じられなくなっていた。特に吸いたいわけでもないのにタバコを咥え火を点ける。吸うたびに短くなるタバコに時の流れを感じる。今まで生きてきて、時の流れをこんなにも気にした事はなかった。彼女との別れを意識してから時間の流れがゆっくりとなり、彼女を失ってからは、時間の流れが完全に止まってしまったようだ。

彼女が東京を去ってから、ひと月以上の時間が流れたが、男にとっては時間が止まったままである。彼女が去ったあの日のまま。

男はふと思った。時の流れを取り戻すために旅に出るのもいいかもしれないと。旅先で季節の風を感じ、すべてをリセットしたほうがいい、いや、そうすべきだと。

時の流れ

この曲は風のセカンドアルバム「時は流れて…」に収録されています。「なごり雪」の後の男の心境を歌った曲のように思えてなりません。




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