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昭和ライダーエレジー3

ヤマハGT50か?ホンダXE50か?
悩んでいる時点で俺には原付バイクで
日本一周を目指すのは無理かも   知れないと思えたあの日


※このお話は俺が高校生だった時、1977年(昭和52年頃)の物語ですが、フィクションの為、登場する人物、団体等は実在するものと一切関係ありません。


第三話

待ちに待ったヒデミの2回目になる試験日が
ついにというか、やっとというか、
とにかくやって来た。
俺はヒデミと駅で待ち合わせをしていた。

ちょっと待て!
ヒデミの試験に何故お前が駅で待ち合わせを
しているんだ?
疑問を持たれた方もいらっしゃるでしょう。
時は前日に戻る。

「え〜明日はヒデミの二回目の試験です。
ぜひとも勝ち取って貰うべく応援と後見人を兼ねて誰か一人付き添いを付けへんか?」
ってトモが言い出したんだ。
すると皆んなも、
「なんやオモロイな!」
「せや、これでヒデミのモチベーションも上がるやろ?なっ?」
「ま、まぁな……」過去問から顔を離さずに
答えるヒデミの目が心なしか泳いでいる。
「で、誰が行くん?」
「こんな時はいつもコレやろ、俺たちは!」
カズキンがポケットから出してきたのが、
UNO(ウノ)である。………………で俺が負けた。

親には早目に学校に行くと言い、学校には
仲間内で一番の老け顔と熟女殺しの渋い声でおなじみの(?)ヒーちゃんこと肥田浩一に
頃合いの良い時間にしてくれと頼んだ。

明石試験場に向かう電車の中で俺は一応
今回は大丈夫なのか?聞いてみた。
「正味な話、どないなん?大丈夫なんか?
原付免許を2回も落ちるなんて事があったら
カッコ悪すぎやで!それこそアホミやで!」
「大丈夫やて、スギケン!心配性やな。
今回はバッチリ問題集をやってきたから
楽勝や!ラ・ク・シ・ョ・ー!」
大丈夫か、ほんまに………。

前回落ちた時に売店で上手く丸め込まれて
過去問題集を買った。いや買わされた。
たかだか原付問題50問。
しかしヒデミにしてみたら、安心が出来たのだから、まぁいいのか。
そういえば当時の俺たちの頃には
「原チャリ」なんて言葉はなかったな。

受付も済ませ、いよいよ時間となった。
「ほな、行ってくるわ!」
「おう、頑張ってな!」
そう言って俺はヒデミを送り出し、ヒデミは
教室へと消えていった。

「さてと……。どないしょ?………。」
実際、試験が終わるまでどうしようか?
今ならスマホや携帯ゲーム機があるので
いくらでも時間が潰せるんだが、
当時はそんな気が利いたものなんて
あるわけがないから仕方なく試験場を
探索する事にした。

建物の裏手には教習コースがあり、丁度
自動車と二輪車が試験中のようだった。
面白そうなのでバイクの試験を見学して
見る事にした。
いずれ大きい免許を取る時の参考にでも
なればOKだしネ!

しばらく眺めていると、順番待ちをしている受験生には二通りのパターンがある事に
気がついたんだ。
一つは一生懸命にコース図で試験の順路や
(コースが3パターン程あり、曜日で変わった)
注意事項等を確認してるヤツ。
もう一つのパターンは、前を走る受験者を
これでもかっ!っていうぐらい見続けて
どこでミスったのか、どこがミスりやすいか
という人の振り見て我が振り直せパターンの
二通りが主な受験者の姿だった。
まぁそれだけ緊張するんだと思うわ。
だって他の受験者や沢山の俺みたいな
ヤジ馬に見られて、ヒソヒソ話されたら。
お気の毒にと思うよ!
またコースレイアウトも意地悪に出来ていて
スラローム走行の直後に一本橋走行の検定が
あるんだけど、そこに行くアプローチの
まぁ短い事!短い事!
車体が真っ直ぐに入っていけないような作りなので、脱輪する者続出!脱輪祭りじゃ!
最後は外周を50km/hで走行して、
停止区間内での急制動。
ここでも緊張でタイヤをロックさせて
転倒者が多数!転倒祭りじゃ!
それにビビれば停止線オーバーでアウト!
以前話したみたいに「落とすための試験」
てのが見てて実感したな。
そんな中で限定解除一発合格なんて
ホンマ、信じられへんわ!オーマイガー!
おっ、そろそろヒデミの試験が終わる頃か。

教室の前に戻ってみると丁度受験生たちが
ゾロゾロと出てくるところだった。
俺はヒデミを見つけ駆け寄った。
「おつかれェ。どや、ちゃんと出来たか?」
「おぅ!バッチリよ、バッチリ!」
ダブルのVサインが誇らしげなヒデミだが…。
「前もそんな事言うてなかったか?
大丈夫なんやろな、ホンマに。頼むで」
「終わった事を心配してもしゃーないで!
それより、お腹空いた!ご飯行こ!ご飯!」
「のん気やな、自分。まっ、確かにお腹は
空きました。なんぞ食べましょ!」

当時は試験が終わると集計するのに時間が
かかっていたんだ。
その為に合格発表は午後一番になるので、
その間に皆さんお昼をとっていた。
食堂は当然激混みだったが、何とか座席を
キープする事が出来た。幸運の予兆か?
俺もヒデミもとんかつ定食を頼んだ。
試験の前のゲン担ぎでカツを食べるという
のは分かるけど、終わってから食べるって
どうなんよ?正解なんか?
「ヒデミは、もし受かったら何を買うん?」
ソースがたっぷりかかったとんかつを
頬張りながら俺は聞いてみた。
「うん。親とはな、田んぼ……おいっ!今
もしとか言うてへんかったか!何やねん…。
親とは田んぼの手伝いをする条件で了解は
もろとる。後は納車当日のお楽しみや!」

お昼休みも終わり、受験者が次々と受付の
ロビーに集まりだした。
当時(当時ばっかりやな!)1階ロビーに
電光掲示板があり、そこに合格者の番号が
表示されるシステムになっていたんだ。
若い番号から映し出されていく。
「ヒデミ、自分何番なん?」
「えっ?あ、あぁ〜」
心なしかヒデミの唇の色が白くなってて…。
「なんや!シャキッとせい!たかが原付で」
「563、563番やねん!」
「うわっ、ゴクローサンかい!やれやれ……
今回もアカンかもな!」
「ゴ、ゴ、563……。あっ、あった!563!」
「やっぱアカンかったか……。えっ?ウソん?
なんであんねん!」
俺は思わず本音が出てしまった。
「あ〜スギケン、信じてへんかったな?」
「私は世界中の誰よりも貴方の味方です!」
「噓つけ!」

そう言ってヒデミは視力検査など、諸々の
手続きに向かった。
誕生日という「枷」がある以上仕方がないのだけど、やはり羨ましかったんだな。
                 つづく

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