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生まれたところを遠く離れて

高校を卒業して東京に出て来てから
早いもので44年かぁ。

東京に出てきた理由はマスコミ関係、
特にテレビ業界に憧れて、憧れて
将来はテレビ局に就職したいと本気で考え、
その方面の専門学校へ行く為だった。
というのが表向きの理由。
もちろん、マスコミ関係の仕事に就きたいと
いう気持ちは本気だけど……。

本当は……

ただ田舎が嫌だった。
生まれてから高校を卒業する18歳の時まで
何故かその場所が好きにはなれなかった。
街の持っている雰囲気、空気感。話し言葉。
その全てが嫌で嫌で…
故郷の何がそんなに嫌いだったんだろ?
◇      ◇      ◇      ◇      ◇      ◇      ◇     ◇  
中学二年の春。
修学旅行で富士山(日本平)、三保の松原、日光
そして東京と回った。
(三年生になると高校受験があるからね)
完全なるお登りさん状態で、見るもの全てに
ワァ〜ワァ〜言って。
特に最終日の東京。
浅草や国会議事堂、皇居、そして当時の東京のシンボルと言っていい
" 東京タワー " 
満を持してのログインだ。
TVの中でしか見た事のなかった
" 東京タワー " 
その時の俺の気持ちって……
テンション爆上がりに決まってるでしょ!
だって生で初めて見るんですよ!
田舎者ですよ!中二ですよ!小僧ですよ!
☆       ☆       ☆       ☆       ☆       ☆       ☆       ☆  
第一だったか第二だったかについては
もう憶えてはいないけれど、展望台に
ジューク・ボックスが置いてあったんだわ。
俺たちグループは小銭を出し合い、何を
掛けるか話し合った結果、
ビートルズに決めた。
まぁこの頃の年代の人はビートルズか
カーペンターズが洋楽の入口で、少し齧ると
ツェップ(レッド・ツェッペリン)やパープル
(ディープパープル)なんかに流れていくのが
王道だったな。
閑話休題。
で、協議してかけた曲は
「All My Loving」「please please me」
「オブ・ラ・ディ、オブ・ラ・ダ」
「Let  it  be」そして「ヘイ・ジュード」
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田舎モンの小僧六人が歌詞の意味も
よく分からず、覚えたての英語で歌ってたら
観光で来てた外国の人五人が
「Oh!Beatles!」
とか言って俺たちの輪に加わって
総勢十一人の合唱になった!
そうしたら「ヘイ・ジュード」のラストの
コーラス部分になると、触発された展望台
にいた全員で
♬ラ〜ラ〜ラ、ララララ、ララララ、
ヘイ・ジュード♬
って大合唱になったんだ。
普段はうるさい先生達もだよ、信じられる?
その時に東京タワーを包んでいた空気が
そうさせたのか、単なる田舎者たちがその場の
雰囲気に飲まれたのかは分からない。
だけど皆んなでビートルズを歌った事実は
44年経った今でも鮮明に残っている。
そんな経験をして旅行を終えた。
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とてつもない衝撃を受けて帰ってきた俺は
完全に腑抜けた状態で、あの東京の一夜の事が
頭から離れなかった。
そんな折、ダメ押しの事があったんだ。
1975年8月2日。
山口百恵、森昌子、桜田淳子
花の高2トリオ初主演の映画「初恋時代」の
封切りがそれだ。
内容は地方の女の子が就職の為、
東京に出て来て、そこで知り合った大学生に
三人とも恋をするっていう
ありきたりな内容だけど、地方の人間が
都会に出ていくって事に、あの東京タワーでの
出来事が忘れられない俺も都会に出て行きたいって感じたなぁ。
その日から俺の中で「東京」というものが
埋められていき、必ず行くと心に決めたんだ。
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あの日から都会への憧れを親兄妹にも言わず、
ずっと心に秘め続け、念願叶い、
今都会で暮らしている。
十八歳から今、六十一歳。
人生の三分の二を東京で過ごした計算になる。
結婚もして、家庭も持ち、そして別離もした。
独り身になり大病を患い、そろそろ人生の
ゴールが見え始めた時、あれほどまでに
嫌った田舎が、故郷が、
ずっと俺の中で支えてくれていた事に
気が付いたんだ。
「今、帰りたいか?」
そう聞かれたら間違いなくYESと答えるよ。
若い時に抱いてた田舎へのわだかまりは
長い年月がひと塗り毎に消していってくれた
みたいだ。
色んな事情で故郷を離れてきた人たち、
夢と希望を持って都会へ出てきた人たち、
何かに疲れたり、辛くなったりしたら
一度立ち止まって、後ろを振り返ってごらん。
過去には戻れないけど、自分自身が歩いてきた道があるはず。
その遥か向こうには貴方の故郷が
見守ってくれていると思うよ。
「頑張れ!」って。

短くつぶやくつもりが長くなっちゃったな。
さて、エッセイなんだか小説なんだか
分からない文章もゴールが見えてきたね。

最後は俺も親父やお袋の眠る
あの田舎に帰ろうか。


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