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妄想ドラマ

時代考証というものがある。
例えば秋山小兵衛は白菜の漬物を食べないし、弁慶はじゃが芋を食べない。どちらもその時代に日本に存在しないからである。
討ち入りした四十七士に、庶民が拍手喝采とか、
侍と許嫁が肩を並べて散策するとか、同様にありえない。
拍手は明治以降に広まった慣習だし、武士が元服したらまず女性と出歩かないだろう。

とはいえ、テレビドラマや映画の中では、しばしばそれらの事実はスルーされる。
単純に作る側の無知ということもあるのだろうが、そうしないとなかなかうまく伝わらない、という理由もあるのだろう。

例えば今年の大河ドラマ。
平安時代の女性がおおっぴらに顔を見せないというのは、高校の古典の授業で最初に教わることで、
日本国民の相当数に知られた事実だと思うのだが、「光る君へ」の中ではそうなっていない。
今回は、"御簾のない世界線"で物語が構成されていて、やんごとなきお姫様も普通に顔を晒したりしているのだ。

あれも、平安時代のしきたりに忠実にやっていたら、一向に話が進まないし、劇的な展開など望めないからで、そこはもう割り切っているのだろう。
何しろ貴族の男女が3回会ったら、それはもう結婚という時代らしいので、どうにも仕方あるまい。

いや、それより何より、そもそも江戸以前は言葉そのものが現代日本語と違っている。
話している台詞がもうフィクションなのだ。
厳密にやっていたら、ドラマ自体が成立しないだろう。

例えば江戸の庶民が、「それは個人的な問題だ」とか「あいつのシンパだ」なんていっていたら鼻白むが、だからと言って全て当時の言葉遣いで話していたら、多分何をいっているのかわからなくなる。
「恐れ入谷の鬼子母神」だの、「御新造さん」なんて、今どのくらいの人に通じるのか、ましてや平安時代の言葉なら、もうチンプンカンプンだ。


ところでわたしにはかねて、妄想しているアイデアがある。

このような時代考証のモヤモヤを払拭すべく、完全に事実に一致した、スーパーリアルな時代劇の制作である。
ここではとにかく時代考証に忠実に、かつてあったであろう世界の完全再現を試みるのだ。

前述のように平安あたりまで遡ると、もう何を言っているのかわからなくなるので、せいぜい江戸時代くらいを舞台にする、大阪あたりも、なかなか独特の文化があったらしいのだが、まぁここは定番江戸の城下を設定しよう。

まず役者の選定。
当時の平均身長は男性で155cmくらい、女性は140cm代だというから、そのくらいの身長の人間を集める。岡村隆史とか矢口真里とかである。
濱田岳は160cmあるので、もう背の高い方だ。
その中に雷電爲右エ門の役で宇梶剛士などを出す。見上げるような大男(本当は雷電の方がまだ10cm高いらしいが)、江戸の庶民の驚きがビジュアルだけで一目瞭然だ。

馬も日本の在来馬を出そう。高田馬場であの小さな馬が調練をしている、なかなか良いではないか。
まだまだ田んぼが見える品川あたりを、延々とつづく大名行列をただ延々とみせる。行列同士がかち合って、格下の方がこれまた延々と待たされる・・・。
眼福である。

言葉も当然、当時のまま、「おきゃあがんなせえ、このごうぜえもんが」「あの半鐘泥棒め、干反りやがった」なんて怒鳴り合うのはどうか。
よくわからんが、江戸の勢いは伝わる。

それと江戸の男女比は4:1、女性の立場は結構強かったらしい。
三行半は男性から一方的に言い渡される離縁状なのだが、実は女性がこれを受け取らないでごねると、男の方は再婚できなかったという。
そういう強い女が、先程の江戸言葉で、気っ風のいい物言いをしている場面、いろいろ楽しいと思うのだ。


最初に書いたように、あくまで妄想なので、多分実現はしない。
けれど、15分でいいから、Eテレでいいから、作ってくれないかなぁ。


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