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【1分で読了。即興小説】運動会で卵を産んだ話

【お題】


産卵


【本文】


今日は娘の運動会だった。
大勢の人がいる中で、私は校庭のど真ん中で卵を産んだ。

私はPTAの役員として、教員とともに運動会の運営のお手伝いをしていた。
事件は玉入れの競技中に起きた。

私は玉入れの籠を持つ係で、子どもたちが玉を必死で空に向かって放り投げる中、
籠の支柱にしがみつく形で耐えていた。
玉は当たると意外と痛くて、歯を食いしばり、目を閉じて終了の笛が鳴るまで苦痛な思いでいた。

一人の男の子がそんな私の姿を見て面白がって、わざと私に玉を投げつけてきた。
私は思わず、声を上げてその子を睨みつけた。
その反応が逆に面白かったのか、次々と私に向かって玉を投げつけてきて、私の我慢も限界だった。

時間の流れが遅い。
笛はまだか。
終わったら、あのクソガキを捕まえて校舎裏でボコボコにしてやろう。

玉は次々と籠に入っていき、もうすぐ満杯になりそうだった。

時間の流れが遅い。
遅すぎる。
もう終わっててもいい頃なのに。

チラッと笛を持つ審判の方を見て私はブチギレた。


審判の女は、イケメン教師と楽しそうに会話をしていた。
その時確信した。もう時間はとっくに過ぎている。

私は奇声を発してしゃがみ込み、怒りを込めてその場でうんこをしてやった。
会場は大パニックになり、きっとあのバカ女は自分の行いに後悔するだろう。

私は産みたての糞を見てみた。これが私の怒りの権化よ。

ところが、私の足元にあったのは大きな五つの卵だった。
私はびっくり仰天してその場にヘタった。それと同時に涙が溢れた。

「私、赤ちゃんができていたのね…」

愛する夫は先日、戦場にて亡くなった。
その愛する夫が私の中で、新しい命として生まれ変わっていた。

私は白くて大きな卵をしっかり抱きかかえ、
夫の名前を空に向かって呼びながら大声で泣いた。


会場は一瞬静まり返ったが、すぐに祝福の拍手が鳴り響いた。

私は卵を天に掲げ、一言。

「ありがとう」

と、呟いた。

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