【1分で読了。即興小説】淡い事故
【お題】
淡い事故
【本文】
ナイフを伝って感じた、初めて人を刺したときの感触が忘れられない。
あのときは一晩中泣いて、三日三晩眠れない日が続いた。
しかし、今や何も感じない。
あれから十数年、世の中は荒廃した。
生き残っているものはごくわずか。
多くの者は謎の感染症により、異形の者と化した。
理性を失った人の形をした何かは、生き残っている私達を狙って、舌舐めずりしながらそこらを徘徊している。
少しでも数を減らそうと、私達生き残りは日々、奴らを殲滅しようとしている。
そんな状況だから、ナイフの扱いには慣れて、
当然人(ような者)を刺したときのあの嫌な感じを全く違和感なく受入れられるようになった。
今日の昼間、いつものように狩りに出かけた。
回り込んで背後から喉元を切り裂いた。
しかし、いつもとなにか違う。
倒れたやつを見てその違和感の正体はすぐに判明した。
こいつは人だ。
仲間だった…
私はその場に立ち尽くし、途方に暮れた。
そこで思った。
やっぱり人間とゾンビって感触違うんだなー、と。
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