見出し画像

絶望のなかでも人は救える。映画『夜明けのすべて』鑑賞

瀬尾まいこさん原作の小説の映画化。大好きな小説なのであまり期待しないようにしつつきっと泣いてしまうだろうと覚悟して鑑賞。
やっぱり泣いた笑


PMS(月経前症候群)を持つ藤沢さんとパニック障害を持つ山添くんの話。
二人とも病気の影響で周りの環境が変わってしまった。そして発作が起きる度に絶望を感じてしまう。
しかしそんな二人が出会うことによって互いの病気を理解し、自身の内面をも肯定できるようになる。


身体的でも精神的でも同じ病名だとしても人それぞれ症状が違う。そして自分が経験したことのない他人の苦しみはなかなか想像出来ない。
話を聞いても「大変そうだね」とありきたりな言葉しか出て来ない。
それは私だってそうだ。


私は四十半ばに入った頃やたらと汗をかき出すしイライラばかりするので、更年期障害だと思い込んでいたがちゃんと病院に行って診てもらうと血液検査でバセドウ病であると診断された。

しばらくたって人から

「もう治ったんでしょ?」
「別に命に関わるわけじゃないでしょ?」

と訊かれた。
別に悪気があって言っているわけではないことは十分承知だ。私自身もある程度年齢を重ね、そんな言葉でいちいち反応したり傷ついたりはしない。

だけれども、本人は苦しんでいる。
それだけでもわかってほしい。

私自身、病気を抱える人に治ったか治らないかとか、命に関わるか関わらないかを気軽に口にすべきではないと思っている(バセドウ病は完治はなく寛解とされる。脈拍が速くなり心拍数が上がるため心臓に影響が出る)。
その病気の知識がないなら尚更だ。

病気は苦しい。それは本人にしかわからない。
だけどひとりにはなりたくない。


私の場合、仕事中でもふとしたことで涙が止まらなくなったり、普段口数が少なく感情を表に出さないタイプであったのに人格が変わったかのように人に対して攻撃的に捲し立てたりすることが多くなった。
自分で自分をどうしたらいいのかわからなくなった。

上白石萌音さん演じるいつも遠慮がちで控えめな藤沢さんが、人のささいな言動が気に障って人が変わったように激しく批判してしまうシーンはこれ、私みたい、、と大いに共感してしまった。
違う病気であるにもかかわらず。
どちらもホルモンバランスの不安定さが関係しているようだ。


松村北斗さん演じる山添くんはパニック障害を抱えている。以前は会社で仕事をどんどんこなしてキャリアを積んでいたのだろう。しかしどこかで無理をしていたのだ。自分が気づかないうちに。
発作を起こす様子がリアル過ぎてこちらまで胸が苦しくなってしまった。

私の夫は逆流性食道炎で朝など急行の電車に乗ることが出来ない。いつも各駅停車だ。
駅のホームで倒れたこともあるらしい。
私とは別の日にこの映画を鑑賞した娘は夫に勧めた。あらすじのみ話しただけなのに怖くて観ることができない、という。
こちらも違う病気だが似ているところはある。ストレスが少なからず原因なのであろう。
ただ同じ病気でも人それぞれ症状や原因は違うので決めつけるわけにはいかないのが難しい。人に理解してもらいたいのにあまり詮索してもほしくない。本人が深刻に考えていればいるほど周りも気を遣ってしまう。


山添くんの発作に初めて接し、さっき職場の床で拾った薬を渡す藤沢さん。山添くんの病気を知った藤沢さんはお互い頑張ろう、と励ますが山添くんは藤沢さんの病気は自分の病気とは全然違う、という。
藤沢さんは自分の病気は山添くんほど(深刻な病気)ではないね、という。

しかし、山添くんは気づくのだ。
自分ばかりが苦しいわけではないことを。
藤沢さんだってとても苦しいのだ。
そして藤沢さんの病気を知ろうとする。

そして、助けたい、と思うのだ。
藤沢さんが自分を助けてくれたように。


二人が働く会社「栗田科学」の従業員たちは自然に二人を受け入れている。決して無関心だからというわけではないだろう。たぶん心の奥深くに傷を持っているであろう人たち。
山添くんの以前の会社の上司と「栗田科学」の社長は互いに家族の自死を経験しているというつながりもある。
移動プラネタリウム機。
「栗田科学」のイチオシ商品。
プラネタリウムの鑑賞会。
山添くんが倉庫に見つけた、かつて社長とともに働いていた亡き弟さんが夜空の星を解説したものを録音したカセットテープ。
今年もそれぞれ傷を抱える人たちが集う。


“孤独な星”だって誰かの役に立っている。
夜明けの直前が実は一番暗い。
その夜明けをじっと人は待つしかない。


人はそれぞれ癒えることのない傷を心に抱いて生きているのだろう。
だから人と比べて自分ばかりが苦しいと思わぬように。
そして誰かが救ってくれたように自分が誰かを救える力はあるはずだ。

人は一人では生きていけないのだから。




この記事が参加している募集

映画感想文

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?