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コインランドリー観察記 #3

本格的に梅雨が始まりましたね。

最近は雨が多いですね。
先日久しぶりにコインランドリーに行ったのですが、「雨で乾かないから『仕方なく』コインランドリーに行く」というのはあまり気持ちが良くないですね。
冬なら暖房で乾くし、なんなら乾燥するから干してる方が良いといったところですが。
扇風機で乾かしてやろうかとも思いましたが蒸した空気を濡れた布に当てるのもなんだか不毛な気がして。

優しい青年がいました。

先週3年悩んでようやく自転車を買ったものですから、最近はどこ行くにも乗り回してるんですが、洗濯物のせいで荷台が重くて倒れてしまって。
更にはスタンドが側溝の穴にはまってしまって。
ギャグか。
それ見て中にいた青年が駆けつけてくれまして、助けてくれました、ありがとう、ありがとう青年。

たまたま目に入ってしまった、覗いたわけではありません、ふと、無意識に目に入ってしまった隣のドラムの洗濯物から、本日の観察記です。

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穴。
ストッキングに穴が空いている。

またやってしまった。
洗濯機から出してそのまま突っ込んでしまったから、なにか金具に引っ掛かったんだろう。
消耗品ではあるけれど、こんな薄い肌色の網を履く意味がわからない。
誰だよストッキング最初に履いたの。

ぶつける先もないまま顔も名前も知らない誰かに苛立ちをぶつける。
そもそもストッキングを乾燥機にかけるなんて馬鹿馬鹿しい。
正直半乾きで履いてもヒヤッとするくらいで夏なんか丁度いいんじゃないかとすら思う。
そんな馬鹿をやったばかりなんだが、バカだけに。やったばかり、ばかを。

私は別にフェミニストでもないしただ怠惰なOLだが、ストッキングとパンプスはなかなか理解しがたい。
「君、ストッキングが電線してるよ、身なりに気をつけなさい。」
「このパンプス、ちょっと高いけど足痛くなりにくくて仕事用に良いんだよね〜。」
ムカつくなぁ。
お前の靴下に穴が空いてないか見てやろうか。
パンプス経費で落とせませんか?
そんな事を考えては、くだらないなと思う。

私の兄は、いわゆるオネエとかオカマとかそう呼ばれる類の人間であるが、私よりも断然ファッショナブルで美意識も高いのでよく買い物に連れ回される。
いかにも「お堅い昭和の夫婦」の両親のもと、趣味を抑圧していた反動もそれを加速させているのだろう。
自由を謳歌していて、キラキラしていて、(物理的にもキラキラしがちだが)そんな兄を見ると少し自分が惨めになる。

今年新卒で入ってきた女の子は、まさに小動物のような守りたくなってしまうような、可愛らしい子だった。
172センチ近くある身長は、昔から「背が高くてかっこいいなぁ」なんて言われ続けているが、男性が可愛いと言われても嬉しくないと言うように私もかっこいいなんて言われても嬉しかない。

経理のお局は嫌いだが、アラフィフとは思えないほど綺麗だ。
女としての余裕を感じる。
恐妻としても有名だが、彼女がいつもつけているティファニーのネックレスは彼が初めてプレゼントしたものらしい。
なんだかんだ幸せな生活しやがって。
いつも不敵な笑みを浮かべているが、本当に無敵らしい。
一度"女子会"に誘われ断りきれずに行ったことがあるが、きっと一緒に働いてなければ良い飲み友達になれただろう。
多趣味で話が面白く、また話を聞くのもこれまたうまい。
意外と良い人かもと思いかけたが、よく考えればあんなに面白い皮肉も自分が的になったら最悪だ。
それに、翌日には「えっこれ言っちゃだめだった?」なんて白々しく、女子会で得た若手社員の恋愛事情を社内にばら撒いていたのでやっぱり嫌いだった。

無いものねだりを繰り返してここまで来てしまった。
もう今更、だけど。
別に彼女らになりたいわけではない。
こんな性格じゃなければとは思わないし、憧れとも少し違う。
ただ、こういう世界線もあったなかな、と思いを馳せて少しブルーになるくらいだ。

またもやこれも、くだらないなと思いながらパイプ椅子から立ち上がり伸びをすると、ドラムの上に何か置いてあるのが見えた。
埃と日焼けで黄黒くなった折り鶴だった。
ご丁寧に顔まで描いてある。
こんな高いところに、誰が置いていったのか。
暇つぶしに誰かが折ったのだろうか。
コインランドリーで折り紙してる人がいたらちょっと警戒するな。
だけどきっと背の高い人だったのだろう。
誰かに見つかるのをずっと待っていたのだろうか。
眺めていると、階下に越してきた新入社員の女の子が入ってきた。
こんな油断しているときに。
でもこの可愛らしい女の子も、いつもカップ酒持ってるオッサンや可愛げのない私と同じようにコインランドリー使うのか。
この雨だから、当たり前か。
なんか変だななんて思う方が変というものだ。

「あっ、お疲れ様です!ほんと困っちゃいますよね〜、雨!」

彼女の声に我に返り、適当に返してそそくさと出て来てしまった。
部屋に戻り、ポケットにカサつくものを思い出す。
あぁ、鶴、盗んできちゃったな。
小汚え鶴。
また次の雨の日には、新しい鶴を折って持っていくか。

・・・

なんとなく捨てられず、窓際にそっと置いてお風呂場に向かう。
今日は久しぶりにLUSHの入浴剤でも使おうか。

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