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最近試みた極私的英語ライティング独習法

最近個人的に試みた英語ライティングの楽しい独習法とそこから得られた気付きをシェアします。

それは
自作SF小説を書いてみる!

という方法です。

とはいっても私は一本もまともに小説を書いたことのない純然たる素人です。ただ本を読むのは昔から好きだし、SFにしてみたのは映画・ドラマで私の最も愛好するジャンルだから。最近Netflixで『三体』を観て興奮し、あんなスケールの大きい設定で書いてみたいという素朴な理由もありますが。。

ただ、いきなり英語で小説を書くのは相当ハードルが高い。英検など資格試験のライティングと違って定型がないので何をどう書けば良いか、どのレベルの語彙・文法を使うかなどいろいろ難しい(それを考えると外国語としての英語で歴史に残る作品を書いたコンラッドとかナボコフはほんと凄い)。

そこでまずはクオリティはさておき日本語で勢い1話書いてみて、それを英語に翻訳するという方法を採ってみました。

その際に活用してみたのが先日のアップデートが話題のChatGPT!

ただこれを使ってみてよく分かるのは、小説のような文章ならなおいっそう、自分の意図した原文のような訳文にならないことが多い、ということです。例えば、単純な語彙レベルでもそういったことがありました。今回の第1話では、「実業家」というキャラクターが出てくるのですが、ChatGPTは'businessmen'というbusinessmanの複数形の訳語を当ててきます。日本語の名詞は単複の区別がないので分かりにくいものですが、本編で「実業家」は特定の1人の人物のつもりで書いています。さらにここで言う「実業家」はイーロン・マスクとかホリエモンのようなイメージなので、businessmanではちょっと語感が違うなとも判断し、私は'Entrepreneur'としました。大文字にしてあるのは2話目以降で語り手として固有名を与えられる重要キャラクターだからという意図があってのことです。

このように日本語↔︎英語を一語一語照らし合わせることでライティング、のみならず語学力全般が楽しみながら立体的に鍛えられると思います。なにしろ他人の文章ではなく、自分のものなのだから、少なくとも原文のニュアンスは自分が一番良く分かっているので、微妙な違いへの感度が高まります。

↑これがオリジナルの日本語版で、カクヨムという無料小説サイトに投稿しました。

また英訳版はWhattpadという海外の投稿サイトに掲載しました。↓

さて、以下には、英訳の際に気を配った点をいくつかあげていきたいと思います。推理小説でもないのでネタバレというほどではないですが、内容・設定・翻訳意図について自作解説していくので、出来れば先に上のリンクから目を通しておいていただけるとありがたいです。。

・作品タイトルと数字
作品タイトルは『ミロクライスト航行記』で英訳は"The Voyage of the Spaceship Mirochrist"としたのですが、宇宙船の名前ミロクライストというのは弥勒(Miroku)+キリスト(Christ)から来ています。弥勒菩薩については、Maitreyaというサンスクリット語由来の英語表記の方が一般的なようですが、ここは個人的な語感でこうしました。

次に56億7千万2048年という惑星の歴史に関する数字なのですが、これは弥勒菩薩が仏陀の入滅後後56億7千万年後の未来に現れるということとキリスト生誕に由来する西暦2048年の組み合わせから来ています。実際の地球の歴史が46億年とされていますから、あながちめちゃくちゃな設定ではないのかなと考えました。

ただこの設定はAI的にはお気に召さないようで(笑)、英訳では必ず勝手に数字を変えられるので手打ちでしっかり5,670,002,048と書き込みました。

・章タイトルと言葉遊び
日本語章タイトルは「白い粉」で英語版は'White Flower'とあえて変えました。お読みいただいた方は分かると思いますが、この章ではコムギが重要な役割を果たします。日本語だと「白い粉」と言えば小麦粉だけでなく危険な薬物を連想するし、英語だとflower「花」とflour「小麦粉」が同音であることを意識して、それぞれで違う形の言葉遊びにしてみました。本来flowersとすべきなのかもしれないのですが単数にしたのは音を揃えるためでした。

・単数形と複数形
先のflower(s)もそうですが、本文全体で名詞の単数形・複数形は一つ一つ悩みました。正直あまり自信ないものもあります。特にSF的な設定として「思念の化石」というのを考えたのですが、AIは'Fossil of Thought'と提案してきました。しかし私の英訳ではそれぞれ複数形の'Fossils of Thoughts'としました。こういう「専門用語」の場合はs要らないのかなあ?

・人名と東洋趣味
第1話では固有の人名は書記官のシバ・ヤスマロだけしか登場しませんが、これは職能から司馬遷Sima Qianと太安万侶から拝借してつけたものです。なので、英訳はShibaではなくSima Yasumaroとしました。またこの章では全体に東洋趣味の感じを出したくて、「四畳半」だとか「草庵」だとか「がらんどう」といった言葉をいくつか日本語版では採用したのですが、そのテイストを英語で出すことは難しかったです。。

・ポンコツのニュアンス
「実業家」Entrepreneurが書記官に対してこの章で2回使っている「ポンコツ」と言う罵倒語のニュアンスに悩みました。ここはどうしても日本語版ではこの言葉を使いたかったのですが、英訳ではAIの提案を採用せずclunkerとlemonにしてみました。どちらもオンボロの車など機械を形容する言葉でもあるのがポイントです。

・猫とオノマトペ
本章の最後に猫が鳴くシーンがあります。これは先に英語版の"Mrkrmiaow"ありきで、後で日本語版では「ミルクルミャーオ」というオノマトペを当てました。これはMrkrgnaoという、ジョイスの『ユリシーズ』に出てくる猫ちゃんの印象的な鳴き声mrkrの響きが可愛い感じがして、援用したものです。


などなど、実際に自分で書いてみて、日英の言語(語彙・音・文法)のみならず文化的背景の違いにも感度が高まってとても有意義かつ楽しいライティング体験でした!また書いたものについても僅かながら反応をいただいたりしてそれもまた嬉しかったです。

続編も書きたいところですが、思った以上に手間と時間のかかる作業なので、短編読み切りとかの方が向いているかもしれませんね。。

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