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社会保障制度のDX化で目指す、誰ひとり制度から排除しない”ポスト申請主義社会”

来月、テクノロジーを活用した「支援制度の申請までにたどり着けない人を減らしていく取り組み」を行っている自治体・企業の担当者の方にご登壇いただくオンラインイベントを、株式会社マカイラNEWPEACE thinktank株式会社POTETO Mediaとの協働で開催,私もお話させていただきます。

本イベントを通して、日本全国の自治体における「社会保障制度×テクノロジー(DX化)」の取り組みを少しでも後押しするような機会としたいと考えています。

以下、コロナ禍において顕著に露呈したセーフティネットとしての社会保障制度の限界と、自治体における「社会保障制度×テクノロジー(DX化)」の取り組みが持つ意義について記しました。よろしければお読みください。


1.申請主義とは

”しんどい状況に置かれた個人が、誰かから手を差し伸べられた経験”は、その人のその後の人生や社会全体に対し、どのような意味を持つでしょうか?

日本には、私たちがしんどい状況に置かれたとき、私たちの「安心」や生活の「安定」を支える仕組みとして、社会保障制度があります。

『社会保障制度は、国民の「安心」や生活の「安定」を支えるセーフティネット』と、国は言いますが、社会保障制度は困っている人を受け止めるセーフティネットとしての役割を最大限果たすことができていません。

その理由の一つが「申請主義」です。

申請主義とは、市民が社会保障制度の利用等の行政手続きにおいて「私はこういう困りごとを抱えているのでこの制度を使えるようだ。」と情報を探し、窓口に自ら足を運び、「使いたいので申請します」と申し出ることが必要であることを指す言葉です。

ポスト申請主義を考える会 概要スライド


申請主義は、しんどい状況で困っている個人が、サポートしてくれる制度を自分で探し、見つけ、役所に足を運び、必要書類を漏らさず揃えて申請をしなければ制度の利用ができないことを意味します。

上記の図でも示した通り、さまざまな理由によって「申請」にたどり着くことが難しい人にとって、社会保障制度はセーフティネットとしての役割を最大限果たすことができていないわけです。

わたしは、制度利用をサポートするソーシャルワーカーの立場から、上記のような社会保障制度が持つ矛盾を感じてきました。

2018年に申請主義によって生じている課題の社会化を目的に、任意団体「ポスト申請主義を考える会」を設立しました。


2.コロナ禍における申請主義

本年、世界を襲った新型コロナウイルスは人々の生活に大きな影響を与え続けています。

コロナ禍において、厚労省が「生活を支えるための支援のご案内」という制度一覧を出したり、子育て給付金において、受取拒否の場合のみ申し出る(オプトアウト)形式の実施特別定額給付金においては、オンライン申請、全世帯への申請書の郵送(プッシュ通知)が行われるなど、従来の社会保障制度においては見られなかった方法が取られました。

政府は二十日、新型コロナウイルスの緊急経済対策として、子ども一人当たり一万円を配る「子育て世帯への臨時特別給付金」に関し、受け取りたい世帯側の手続きを不要とする方針を決めた(中略)
児童手当や年金などは希望者から手を挙げる「申請主義」が一般的。今回は、逆に希望しない人が申し出る方式を取る。
(東京新聞 以下リンク先より)

このように、全国各地自治体やNPO等の支援団体が、必要としている人に必要な支援情報を届けるために、オフライン・オンラインでのさまざまな情報発信を行いました。わたしが所属する法人(Social Change Agency)でも、株式会社マネーフォワードさんとの個人向けの支援制度の検索サービスの作成などさまざまな取り組みを行いました。

ですが、コロナ禍において、さまざまな主体が制度情報の発信を行ったにも関わらず、制度が必要としている人にまだまだ届いていないことが指摘されています。


ただ単に情報を発信するだけではなく、行政から市民に対し利用できる制度についてお知らせが来るようにする、そもそもの申請を不要にする等のダイナミックなシステムチェンジがなされなければ、セーフティネットとしての社会保障制度はその役割を最大限発揮することが難しいということもまた、コロナ禍において社会が直面化させられたことでした。


3.行政のDX化と社会保障制度

2020年は新型コロナウイルスの感染予防を目的とした非接触の必要性から、さまざまな領域でDX(デジタルトランスフォーメーション)化が進みました。

行政においてもDX化が叫ばれ、先にお伝えした通り、社会保障制度においてもプッシュ通知やディフォルト申請の採用が為されました。そして来年度には、デジタル庁の創設が予定されています。

行政のデジタル化は不可逆で、デジタル化はデジタルデバイド(情報格差)や、情報通信端末の所有や通信環境へのアクセスが難しい方たちへ施策の必要性を内包します。

行政サービスにおけるデジタル化の波を、社会保障制度におけるオンライン申請/申請の不要化/プッシュ通知を推進するなどのダイナミックなシステムチェンジにつなげ、制度を利用できる条件を持つ人が、100%利用できる、言い換えれば離脱率を0%となる社会を目指すために、テクノロジーが適切に活用され、社会保障や福祉が後回しにならないような世論形成が必要であると考えます。
先般、河野大臣も支援現場の視察時に「プッシュ型」の必要性に触れており、今がまさに、誰ひとり制度から排除しない社会の実現=社会保障制度がセーフティネットとしてその機能を最大限発揮できるための施策を押し進める好機だと考えます。


4.今回ご登壇いただく皆様の取り組み

今回ご登壇いただく行政・企業の方の取り組みは、テクノロジーの力を活用して社会保障制度を必要としている人に届けやすくすることを目的としているという共通点があります。(千葉市のプッシュ型通知のサービスや広島市の災害支援制度の検索支援サービスについてお話いただく予定です.)

現状、行政には市民への社会保障制度情報の啓発や教示の「義務」が法的に課せられていません。

にもかかわらず、このような取り組みを行われた背景には、自治体の担当者の方々各々が、市民の声を聞く中で得た課題意識、そして課題を解決するためのパートナー企業との出会い、チームとしての協働、サービスを開発・公開するまでの紆余曲折があったに違いありません。本イベントでは、取り組みの内容だけでなく、取り組み実施に至った背景についてもお話いただきたいと考えています。

また、本イベントは企画段階から、株式会社マカイラ社の上野さん、NEWPEACE thinktankの増沢さん、 株式会社POTETO Mediaの古井さんをはじめ、各々異なる領域での実践/専門性を有しているメンバーが集い、申請主義によって生じる課題に対して、何ができるかを議論してきました。

また、本企画のリサーチ段階においても、複数の行政関係者の方にお力添えいただきました(改めて感謝申し上げます。)

行政サービスの申請や社会保障制度は、この国に生きる全ての人が当事者であると言えます。本イベントを通して、申請主義によって生じる課題に対してでき得ることをさまざまな方が行為の主体として考えてくださったならばとても嬉しく思います。


5.終わりに

”しんどい状況に置かれた個人が、誰かから手を差し伸べられた経験”は、その人のその後の人生や社会全体に対し、どのような意味を持つでしょうか。

私は、14歳の時に血液の癌になり、医療関係者の方にはもちろんのこと、公的な医療費支援制度に闘病を支えてもらいました。この制度によって私の(家族が支払う)医療費負担は大幅に軽減され、家族の生活自体が助けられ、結果としてわたしは闘病を経て、今こうして生活/仕事ができています。

自分ではどうしようもできないことに見舞われたとき、他者や社会によってどのような応答をされたかということの経験的積み重ねが、個人が社会に対し得る信頼のパラメータに影響しているのだとしたら、自身の仕事の一挙手一投足もまた、社会に対する信頼の総和に間接的に関与していると思うと、その意義を再考します。

社会に対する信頼の総和が少ないことが、個人が、崖から落下しそうな壁面(比喩)で、助けてくれと声をあげたりすることを、無意識化で抑制することに影響するとしたならば、目に見える環境のガワを整えることと同じくらい、誰かが応答してくれるはずだ、という社会への信頼を、どのように社会に満たしていくのかということについて考えます。


幼少期に、公費助成制度を利用し、社会によって助けられた身として/ソーシャルワーカーとして制度を活用できなかったことで困難な状況に追いやられた人たちを関わってきた身として、社会に信頼を満たすために必要な社会の機能を最大化するために、日本全国の自治体における「社会保障制度×テクノロジー(DX化)」の取り組みを少しでも後押ししていきたいと考えてます。

自治体の職員の方、テクノロジーを活用した事業を行っておられる企業の方、社会福祉に関する仕事につかれている方、そして、行政サービスの申請や社会保障制度に課題意識を持たれている方、利用した際に課題を感じた方など、どなたでも。ぜひ、多くの方のご参加をお待ちしております!

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