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伊月一空の心霊奇話 ーそのいわく付きの品、浄化しますー 第4話

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第1章 約束の簪

3 縁 出会い

「おい、大丈夫か?」
「やめて!」
「しっかりしろ!」
 頭上から落ちてくる声に、紗紀は目を開け顔を上げる。
 目の前に若い男が立っていた。

 立てるか? と訊ねられ、腰をあげようとした紗紀の腕に、男の手が添えられた。
「すみません……突然、具合が悪くなって」
 紗紀はもう片方の手でこめかみの辺りを押さえる。
 頭痛はおさまったが、目の奥がまだチカチカした。
 そのせいで、少し吐き気がする。

 それにしても、今のは何だったのだろう。立ち上がった瞬間、目眩が起き、頭の中が真っ白になった。
 ふらつく紗紀の身体を支えたのは側にいる男の腕であった。もし、支えがなければ倒れていた。

 男は軽く息をつき、首を緩く振った。
「まともに影響を受けたようだな。歩けるか?」
 怖い。すごく嫌な感じ。
 まだ先程の恐ろしい声が、耳の奥にこびりついているようだ。吐き気を起こしそうな映像が、いまだまぶたの裏にちらついている。

「助けて」
「ああ、大丈夫だ。ゆっくり手を開いて君が握っているその指輪を僕に」
 言われた通り、手を開く。
 開いた手のひらには、きつく握りしめていた指輪の跡がくっきりとついていた。その指輪を男が受け取る。

「もう大丈夫。これで何も聞こえない。何も見えない」
 穏やかな男の声に、落ち着きを取り戻した紗紀の焦点がようやく結び始める。
 怖い声も映像も消えていた。
「はい。もう、大丈夫です……」
 と、言ったもののまだ足元がふらついて、何かにしがみついていなければ、まともに立てない。

 紗紀は男の腕にすがった。
 この人から離れたら、また怖い思いをするのではないかという恐ろしさもあり、相手の腕を放せなかった。
「カウンターの側に椅子がある。そこで休め」
「すみません」
 男に言われるままカウンター近くまで連れて行かれ、椅子に座らされた。

 私、突然どうしたの。何か変。

「今お茶を持ってこよう」
「だ、大丈夫です……」
 と言うが、明らかに大丈夫な顔色ではない。
「いいから座っていろ」
「はい……すみません」



 これが、紗紀と骨董屋『縁』の店主、伊月一空いつきいそらとの出会いであり、縁であった。

ー 第5話に続く ー 

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