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『怨霊が棲む屋敷 呪われた旧家に嫁いだ花嫁』 第15話

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第2章 押し入れにひそむ多佳子

8 押し入れにひそむ多佳子

 しきりに押し入れを気にする妻に、利蔵は訝しんで愛撫の手をとめた。
「どうしましたか?」
 問いかけると、妻は押し入れに視線を据えたまま唇を震わせている。
「押し入れが開いて、誰かが」
「誰か?」
「誰かが、こちらを覗いている気配が」
「まさか」
「ほんとうです!」

 そんなはずはないと、利蔵は妻の髪をなで、安心させるようにひたいに口づけを落とす。それでも、やはり妻は押し入れを見つめたまま、顔を青ざめさせ、カタカタと歯を鳴らしている。
 利蔵はもう一度押し入れをかえりみて息をつく。

 いったい誰がこの部屋に入り、押し入れにもぐり込むなど、ばかげたことをするというのか。しかも、今夜は初夜であることは、みんな知っている。
 妻があまりにも怯えて泣きそうな顔をするので、それならばと、利蔵は苦笑しつつもやむなく行為を中断し押し入れまで歩み寄った。

 何もないと分かれば、妻も安心するだろう。
「大丈夫ですよ。こんなところに誰もいるわけが……ひっ!」
 そう言って、引手に手をかけ扉を開けた利蔵は、その場に腰を抜かし尻もちをつく。
 驚きのあまり叫び声すらでなかった。
「ど……」

 あろうことか押し入れの下段に、多佳子が膝を抱えた格好で座りこちらを見ていたのだ。
「どうして! どこ……いや、いつから!」
「利蔵さん」
 開けられた押し入れから、髪を引きずり多佳子が這いつくばりながら出てくる。

 多佳子の顔はひどい乱暴を受けたと分かるほどに、まぶたも頬も赤黒く腫れていた。髪の毛をむしりとられたのか、生え際が禿げ頭皮から血が流れている。その血が多佳子の顔面に流れ、凄まじさを増した。

「わたし なやで利蔵さんまってた」
「く、来るな!」
 まるで、ほふく前進をするように腕を交互に動かし、多佳子が両脚を引きずりながら這いつくばってくる。

「あいつらにらんぼうされた あいつら わたしをめちゃくちゃにした たすけて利蔵さん いたい いたくて死にそう いたい いたいたすけて」
 手を伸ばし、多佳子は利蔵の元へと這い寄っていく。

 様変わりした多佳子を、利蔵は恐ろしいものを見る目で首を振る。多佳子が近づくたび、利蔵は畳に尻をついた状態で後退する。
「利蔵さん」
「来るな……こっちに来るな!」
 伸ばした多佳子の手が、利蔵の右足首をむずりとつかんだ。

「やめてくれ! 頼むからやめてくれ!」
「なぜその女だく? 利蔵さんはわたしのものなのに」
 赤黒く腫れた顔で多佳子は利蔵を見上げる。
「黙れ! 黙れ、だまれっ!」

 掴まれた足首の手を解こうと、もう片方の足で多佳子の顔面を何度も蹴った。しかし、顔を足蹴にされても、多佳子は利蔵の足首を離そうとはしない。
 だらしがなく開いた利蔵の足と足の間に、多佳子は身体を差し込み利蔵の腰にのろりと手をついた。

「利蔵さんあいしてる だかせてあげる うれしいでしょ?」
 血のこびりついた髪の隙間から多佳子は片目をのぞかせ、ニタリと笑うと、あろうことか唇を重ねてきた。
 利蔵は目を見開いた。
 多佳子も目を閉じずに、血走った目で利蔵の顔を凝視する。

「うぐっ」
 多佳子の舌が咥内を掻き回すように蹂躙してくる。
 舌を絡ませ歯列をなぞり、卑猥な音をたてて利蔵の唾液を吸い、さらに、多佳子は自分の唾液を利蔵の喉奥に送り込ませ飲ませた。

 多佳子の汚物のような口臭と粘った唾液に、利蔵は何度も嘔吐いては胸を上下させ苦しげに顔を歪めた。互いの唇の端から、たまった唾液がこぼれあごを伝い流れていく。
 さらに、利蔵は目を見開いた。
 利蔵の一物に手を添え、またがっていた多佳子が腰を沈めてきたのだ。

「やめろ!」
 利蔵のそれが、多佳子の体内深くに飲み込まれていくと同時に、多佳子は恍惚とした表情を浮かべた。
「わたしたちむすばれた」
「頼むから……やめて……くれ」

 半泣き状態の利蔵にはかまわず、多佳子は恥骨を擦りつけるようにして前後に腰を揺らし始めた。
 揺れるたび、多佳子の身体からどぶ臭い腐臭が漂ってくる。
 刺激の強いその臭いに、とうとうこらえきれず利蔵は胃の中のものを吐き出した。

 吐瀉物にまみれながらも、多佳子は利蔵の裸の胸に両手を添え、髪を振り乱して腰を動かす。
「ああ……利蔵さん……」
 多佳子の長い黒髪が手足に絡みつく。

 こんなことがあっていいのか。
 それとも、僕は悪い夢を見ているのか。

 畳の上に大の字になりながら、利蔵は放心状態であった。
 自分の腰の上で髪を振り乱し、踊るように多佳子が跳ねている。
 利蔵の口から何度もやめろという声がもれるが、それはただの呟きにしかならなかった。

 やがて、放たれた精が多佳子の中に吐き出される。
 嬌声をあげ、多佳子は背中を仰け反らしビクビクと身体を痙攣させた。
 ようやく利蔵から離れた多佳子の股間から、白く濁った体液がこぼれ、内太腿を伝って流れ落ちていく。

 多佳子は両脚を広げたまま利蔵の顔の真上に立った。
「みて 利蔵さんのこだね こんなにいっぱい」
 垂れた精液を指ですくい、多佳子は口元に持っていきべろりと舐めた。
「わたしたちの子」

 子種?
 利蔵の血を継ぐ子が、忌々しいこの女の体内に?
 冗談ではない!

 我に返った利蔵は、渾身の力で多佳子の身体を突き飛ばした。もんどり打って多佳子は両脚を広げたまま後方に転がる。
 利蔵は眉間にしわを刻んだ。
 この時の利蔵は、恐怖と衝撃で冷静さも我も失っていた。




 そしてこれが、利蔵家に根強く引きずることになった、多佳子の怨念の始まりでもあった。

ー 第16話に続く ー 

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